なら再発見
第63回へ                  第64回 2014年2月1日掲載                  第65回へ >
十津川村 ―― 八木新宮特急バスで訪ねる
 
 167と168、この数字の意味は?   答えは奈良交通の八木新宮特急バスの路線の全長と、停留所の数、通る道の国道番号。高速道路を走らない一般路線バスとしては走行時間、運行距離、停留所数で日本一だ。
 路線の全長は約167キロ、停留所の数は167カ所、橿原市の近鉄八木駅から国道168号を通って紀伊半島を縦断し、和歌山県新宮市のJR新宮駅まで約6時間半かかる。八木発と新宮発それぞれ1日3便ある。
 八木新宮線の開通は昭和38年3月1日。昨年に開通50周年を迎えた。それを記念して、DVDやガイドブックのついた168プレミアム乗車券が発売されている。価格は通常価格と同じ5250円。プレミアムにひかれて長時間乗車に挑戦してみた。
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 開通当初の奈良側の起点は奈良市の大仏前だった。大仏前発、新宮前発がそれぞれ1日2便。運行距離は196キロ、終点までの所要時間は約8時間。映画が350円の時代に、終点までの運賃が915円だった。
 その後、奈良市内から乗る客の減少などで、奈良側の起点が近鉄大和八木駅に変わった。さらにローカル路線の削減により、すべての停留所に止まるようになったが、その後も「特急」を名乗っている。


十津川村にかかる「谷瀬の吊り橋」

 ワンマン運行で運転手の交代がないこともあり、途中1時間から1時間半ごとに休憩がある。だから長時間乗車といっても、意外に楽だ。
 休憩は五條バスセンター(10分)、上野地(うえのじ)(20分)、十津川温泉(30分)の3カ所だ。167の停留所といっても、実際に止まる停留所は少ないので、「特急」といっても差し支えないだろう。私の乗ったバスは休憩の3カ所以外では16カ所しか止まらなかった。観光名所にさしかかると女性のきれいな声でガイド音声が流れるので、観光気分も味わえる。
 沿線の見どころは多いが、メーンは日本一広い村として知られる十津川村だ。
 休憩地の上野地では、十津川にかかる「谷瀬(たにぜ)の吊り橋」が体験できる。高さ54メートル、長さ297メートルは、生活用の鉄線吊り橋としては日本有数を誇る。昭和29年、対岸集落の住民らが山の木を切るなどして1戸20万円を出し合い、総額800万円で造られた。
 歩いて渡るだけでもかなり揺れるが、地元の人はバイクや自転車に乗ったまま平気で渡る。毎年8月4日には、橋の上で和太鼓を演奏する「揺れ太鼓」が催される。
 また村内には湯泉地(とうせんじ)温泉、十津川温泉、上湯(かみゆ)温泉の3つの温泉場がある。歴史は古く、いずれも優れた泉質が自慢だ。平成16年6月には全国初の「源泉かけ流し宣言」を発表し、すべての温泉施設を源泉かけ流しにした。
 他にも玉置神社や熊野参詣道小辺路(こへち)など見どころが数多くある。
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奈良交通の八木新宮特急バス
 災害が少ないといわれる県内だが、十津川村は時折、大きな災害に見舞われてきた。
 明治22年の十津川大水害では168人が死亡、村落の大部分が壊滅状態になった。約2500人が北海道へ移住し、新十津川村(現在は新十津川町)を開拓した。土砂の堆積で川幅が広がって吊橋が必要になったのも、この水害以降という。
 平成23年9月の台風12号による紀伊半島豪雨では、大規模な土砂崩れや落橋で道路が寸断。家屋が流され、五條市、天川村を含めて死者14人、行方不明10人という明治以来の甚大な被害が出た。
 現在は道路や橋の応急処置が進み、バスの運行に支障はないが、所々に土砂崩れの爪痕がまだ残り、復旧工事は続いている。また一部地域の住民は、今でも仮設避難住宅での生活を強いられている。
 八木新宮特急バスには、途中下車可能、2日間有効のバスハイク乗車券もある。復興支援のためにも、豊かな自然と歴史に恵まれた十津川村を訪れてみてはどうだろう。

(NPO法人奈良まほろばソムリエの会 石田一雄)
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