春日山原始林の東方に位置する円成寺。少し陽が傾き始めるころ、本堂に一歩足を踏み入れると、西側の障子からの柔らかな日差しに、本堂の中は格別の空気に包まれます。 
 湧(わ)き雲の白が鮮やかな内陣の柱が、参拝者の視線をいざないます。描かれた二十五菩薩(ぼさつ)が楽器を奏でながら飛翔(ひしょう)する姿は、さながら浄土の音色が舞っているようです。 
 持国天と多聞天の間から見上げる本尊、阿弥(あみだ)陀如来坐像(ざぞう)(重文)の横顔は、柔らかな黄檗色(きはだいろ)の輪郭を帯び、いっそう優しく浮かび上がります。 
 「仏の本様」と称(たた)えられる定朝様式の調和のとれた温雅な様相が、波動となって参拝者にとびこんでくるようです。宝相華(ほっそうげ)唐草文様の光背に残る金箔(きんぱく)を目にすると平安時代後期の造立当時の煌(きら)びやかさに思いがめぐります。 
 本堂の階段を下りる時、そのアングルからしか目にできない楼門の門と三つの窓がかもしだす四つの額の絵のような光景に、また心ときめくのです。 
 
【奈良まほろばソムリエの会 会員 藤井哲子】 
 
 
 ■宗派 真言宗御室派
 ■住所 奈良市忍辱山町1273
 ■電話 0742・93・0353
 ■交通 近鉄奈良駅からバス「忍辱山」下車徒歩2分
 ■拝観 9〜17時、大人500円、中高生400円、小学生100円
 ■駐車場 有(無料)
  
  
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