神武東征と日下直越道

奈良まほろばソムリエ友の会の有志では今年から日本書紀の訓みくだし文により「巻第三 神武天皇」を学習している。講師は郷土史家の木村三彦先生で、生徒は35人である。
1月に第1回目の講義があり神日本磐余彦の誕生から東征の中ほどまで進んだ。
その後木村先生から、神武東征の聖蹟と日下直越道の史跡めぐりが発案され、メンバーの鉄田氏から呼びかけがあった。
史跡めぐりは1月29日に実施されることとなった。参加者は12名である。
たまたま、私が今回の史跡の近くに住んでいることもあって、道案内をすることとなった。
コースは生駒山上から日下直越道を下り孔舎衙坂の聖跡と盾津の聖蹟を訪ね、さらに日下邑の史跡を巡るというものである。
近鉄生駒駅に10時に集合。ケーブルカーで山上に向かう。
このケーブルカーは近鉄生駒鋼索線といい大正7年に開通した日本最初の営業用ケーブルカーである。

30分ほどで生駒山上に着く。
山上は遊園地であるが今は冬季休業である。
生駒山は標高642m、金剛生駒紀泉国定公園に指定されている。一等三角点を確認する。
ちなみに、奈良県での一等三角点の山は金剛山や山上が岳などの6山である。

このあたりでは全員はまだ力が有り余っているようだ。
頂上を後にして、府民の森の日下園地に入る。この府民の森は大阪府政100年を記念して30年余り前に作られた憩いの森である。
この森の中を東西に横切るように生駒越えの一つ、辻子谷越道が続いている。一行は石畳の残る道を歩く。

辻子谷道から管理道に入る。この道からは大阪平野が一望できる。今日は少し曇り空で視界はあまりきかないが、地平にはWTCビル、大阪府の分庁舎も見え、その先には鈍く海が光っている。
やがて、日下直越道の取りつけ点に差し掛かる。この道は一般のハイキング道でもないので非常にわかりにくい。
日下直越道は奈良から難波までの最短コースにつけられた古道のうち生駒越えの道をさすのであるが、現在ではその道の在り処が明確でなく、5~6本の候補がある。
今回たどる道は、地元の日下邑で古くからある伝承の道を有志により整備されたものである。
しかし整備されたのはかなり以前で、今は通る人もすくなく道は倒木や藪でかなり荒れている。
このようなことから、一昨日下見を行い取りつけ点に道標を設けておいた。

手作りの道標をつける
ここからいよいよ日下直越道を下る。
古事記の雄略天皇記に「初め大后、日下に坐しし時、日下の直越の道より、河内に幸行でましき」とありこの道の古さを物語っている。
また、万葉集には遣新羅使 秦間満の歌として
「妹に逢わずあらばすえなみ、岩根踏む生駒の山を越えてぞ我が来る」があり、平城宮から難波の宮への最短の道でもあったようである。
生駒山から真っ直ぐ下るのであるから当然道は急こう配である。
その上、谷道であるため段差のある露岩が交じり非常に歩きにくい。倒木もある。さほど距離はないが思ったより時間がかかる。

1時間余りかかって、孔舎衙坂の聖蹟碑に着く。
木村先生から聖蹟碑や周囲の状況について解説をうける。

時に長髄彦聞きて曰く「夫れ、天神の子等の来ます所以は、必ず我が国を奪はむとならむ」
として、ここで皇軍と長髄彦の戦いになった。ここはいわば古戦場跡である。

次いで五瀬命負傷の碑に向かう
「流矢有て五瀬命の肱脛に中れり」
碑は自然石に「厄山」と刻まれているが、意味はよく分からなかった。

予定の時間をかなりオーバーして日下邑に下っていく。時間はすでに2時前である。
日下は孔舎衙とも書きまた草香とも書く。
神武東征の地だけあって史跡が多く、石器時代の遺跡からは有舌尖頭器が出土し、縄文時代の貝塚もある。
途中、黄檗宗の大龍寺に立ち寄る。この寺は推古天皇6年、厩戸皇子の創建である。

やっと昼食をとるところまで下ってきた。
指定文化財河澄家住宅である。
河澄家は南北朝応安2年 日下連河澄余市大戸清正が祖で、江戸時代の庄屋である。15代当主常之は寛政10年日下村に隠棲していた上田秋成と親交を持ち、当家の棲鶴楼は秋成らが集まる文芸サロンであった。

ここの座敷、棲鶴楼を借りて遅い昼食をとる。文化財での食事は少し気が張るが、由緒ある庭を眺めながらの食事も良いものである。

河澄家の前での集合写真

河澄家を辞し最後の史跡、盾津の聖蹟碑に向かう。
途中には孔舎衙東小学校があり、ここの校章が金の鵄を模っているのも珍しい。
「却りて草香津に至りて、盾を植てて雄叫びしたまう。因りて其の津を號けて盾津と曰う。」
盾津聖蹟は普通の住宅街の中にある。神武天皇の聖蹟と言っても今の世代ではあまり知られていないように思うが、周囲はよく整備されている。
ここでも、木村先生から説明を受ける。

今回の史跡めぐりはこれで終了となった。あとはバスで近鉄新石切駅に出て解散。
日下直越道は急坂の悪路で難渋したが、それだけに、滅多に行けない所を探索できて一同大いに満足されていたようであった。
今回参加できなかった方々も、次回にはぜひ参加され、在りし日の神武東征に想いを馳せていただきたいと思います。
木村先生。参加者の皆様、お世話になりありがとうございました。

まほろばソムリエ友の会  小北博孝