保存継承グループ 五條市・念仏寺「陀々堂の鬼はしり」見学記

1月14日の朝から五條市では大雪注意報が発令され見学できるかどうか心配しておりましたが、午後から解除となり、昨年の新型コロナによる見学見送りから1年、念願の壮大な火祭り「鬼はしり」を午後9時から気温1度の寒さの中、見ることができました。
全国でも珍しい屋内での火祭りで、斧を持つ赤鬼(父)、捻木(ねじき)を持つ青鬼(母)、槌を持つ茶鬼(子)が重さ約60㌔の燃えさかる松の根の松明(たいまつ)を抱え、赤鬼が堂内から戸口の正面右側に現れ、次に青鬼、そして茶鬼が続き、三匹の鬼は正面中央、そして左側に順に移動した後、堂内に入り再び戸口に姿を現すことを3度繰り返します。
戸口に現れた鬼に松明を渡し、お堂の奥に移動する前に鬼から松明を受け取る佐(すけ)、松明を持つ鬼に桶から笹竹で水を振りかけて熱気を防ぐ一方、床に落ちた火をすかさず消す水天(かわせ)なども懸命に立ち動きます。
吼(ほ)えるような法螺貝、そして太鼓、鉦、棒打の強烈な音が響く中、松明が火の粉を撒き散らし、鬼が天を睨(にら)むようにお堂の正面に並ぶ姿は壮観の一言に尽き、寒さも忘れて見入りました。
特に本堂の内陣、須弥壇裏の松の板壁を長さ1㍍ほどの樫の棒2本でリズムをつけて叩く「阿弥陀さんの肩叩き」と呼ばれる棒打の音が堂内に響きわたり、いやがおうでも祭りを盛り上げるものでした。

陀々堂正面に鬼が並び、松明からは火の粉が撒き散る圧巻の場面

ここで「鬼はしり」について触れておきましょう。
「鬼はしり」は、五條市大津町の念仏寺本堂の陀々堂で行われる修正会の結願行事で、五穀豊穣、厄除を祈り500年余りの伝統を誇ります。
本尊の阿弥陀如来に仕える三鬼が堂内を豪快に巡り住民の災いを払うもので、鬼が幸いをもたらす祭りは全国でも珍しいと言われています。平成7年(1995)に五條市で初めて国の重要無形民俗文化財の指定を受けています。
1月14日当日の修正会結願の流れは次の通りです。
13時~ 僧による大般若心経転読。
16時~ 昼の鬼はしり(無灯火)
16時半~ 福餅まき
*コロナ禍のため今年も昼の鬼はしり終了後に行われる「子ども鬼はしり」と福餅まきは中止されました。
19時~ 息災護摩供(堂内)
19時半~ 柴灯護摩供(境内)
21時~ 鬼はしり(たいまつ点火)

堂内で厳かに読経などが行なわれた息災護摩供

今回、保存継承グループを中心とする参加者7名は息災護摩供からの見学となりました。
息災護摩供に続く柴灯護摩供も見応えのある行事でした。金峯山寺蔵王堂(吉野町)からの行者が法螺貝と共に境内に入ってきます。結界を結ぶ呪文を数回唱えた後、厄除けのため弓矢を天空に向け引き絞って放つ所作を数回行います。境内に作られた山になったヒバ(ヒノキの生葉)に点火され、護摩木が次々と焼(く)べられ大きな炎の柱と煙が境内に立ち昇り、辺り一面にヒバの焼ける匂いが広がります。

柴灯護摩供の始まりで、弓矢を引き絞る所作をする行者
境内に煙が広がり、炎が高々と立ち昇る柴灯護摩供

「鬼はしり」の鬼面のことにも触れましょう。保存継承グループでは、県内の文化財の調査活動をしています。
この鬼面についても、2020年10月に奈良県指定有形民俗文化財の1つとして調査しました。現在「鬼はしり」で使用している三鬼の面は1960年に製作されたヒノキの一木作りの複製品です。室町時代の文明18年(1486年)の墨書銘があるオリジナルの三鬼の面はカヤの一木作りで現在、五條文化博物館に収蔵されています。
父鬼面と子鬼面は口を開いた阿行で2本角、母鬼面は逆の吽行で1本角で、優しげな表情です。もう1セットの複製品が五條文化博物館で常設展示されていますので、興味のある方は見に行かれればいかがでしょうか。

災いを払うとされる陀々堂の鬼。多くの見物人の目を引きつける

最後に「念仏寺鬼はしり保存会」前会長の岩阪雅由さんにお聞きした、地元の子供たちへの継承の取り組みをお伝えします。15年ほど前から、阪合部地区の小学4年・5年・6年生、中学1年生を中心に約20人の子供たちへの指導を行っているそうです。昨年、今年と「子ども鬼はしり」はコロナ禍のため中止となりましたが、例年は前年に祭具や着物を準備し、子供たちに鬼の所作や棒打の指導をしているそうです。やはり、少子化で子供の人数が少ない年もあると話しておられました。
お堂の前で「鬼はしり」を見る私の前には、お母さんらに連れられた地元の子供たちが三鬼の勇ましい姿を食い入るように見ていました。午後10時頃、壮大な火祭り「鬼はしり」の行事は終了。保存継承グループに身を置く者として、子供たちが500年余り続く伝統の「鬼はしり」を上手く継承していけるようにと、願いながら暗くなった陀々堂を後にしました。

陀々堂近くの民家玄関前に置かれた鬼はしりの行灯が雰囲気を盛り上げた

保存継承グループ  文:鶴田吉範、写真:橋詰輝己