保存継承グループ 御所市「東佐味(ひがしさび)の六斎念仏」見学記

8月20日、御所市東佐味の弥勒寺で千本灯明(千灯供養)があり、その際に六斎念仏をあげるということで弥勒寺へ行ってきました。

御所市東佐味の弥勒寺

 六斎念仏とは、もとは月に六日ある斎日(さいじつ・いみび)に、行いを正すために唱える念仏のことでしたが、だんだんと六斎日と関係なくお盆や葬式の時に唱えられるようになりました。奈良県で現在も伝わっているのは、安堵町東安堵と奈良市八島町と、この御所市東佐味の三か所だけです。
 8月20日の夕方、弥勒寺に白装束の念仏講の方々がやって来られました。若い方が多いことに驚きました。実は東佐味の六斎念仏は昭和58年に県無形民俗文化財に指定されましたが、高齢化のため講員が一人になってしまい活動は休止状態だったとのこと。そこで行政や研究者など有志で六斎講の復興を試みて、ちょうど1年前の令和3年8月20日、弥勒寺千本灯明で30年ぶりに復活したということです。現在講員は10名ですが、8名が奈良県外の方で、民俗音楽の研究者等々専門的な方ばかりです。将来は地元東佐味の方に引き継ぐのを目標にしているとのことです。

奈良県指定無形民俗文化財 「東佐味の六斎念仏」指定記念碑と先覚者供養塔

 今年も最後の伝承者である田中さんの墓前で六斎念仏が唱えられました。復活元年にあたる昨年は洋服でのおつとめだったそうですが、今年は全員まっさらの白衣、白袴、白足袋の白装束です。片手にこれも新調された念仏鉦(ねんぶつがね)、もう片手に撞木(しゅもく)を持って鉦を打ちながら、唱える言葉は「南無阿弥陀仏」。曲の感じは・・・何となく明るい!これは意外でした。唱えている側と唱えてもらっている側が念仏を通してともに楽しい時間を過ごす、そんな印象を受けました。

復興した六斎念仏を墓前で唱える六斎講の方々

 午後7時、お盆の千本灯明が始まります。東佐味の檀家の方々が本堂前のろうそく台や境内の墓地に立てられたろうそくに火をともしていきます。私たち見学者も一緒にともしていきました。ろうそくは本当に千本あり「檀家の役員さんたちで、一本一本半紙を巻いて準備された」とご住職が話しておられました。

次々と火がともされる千本灯明

 ご住職と副住職がお経を唱えながら境内を3周されます。途中から檀家の方々もそのあとに続きます。千本の灯明の中を一行が誦経しながら進む様子は大変幻想的なものでした。

境内を誦経しながら進むご住職と副住職
ご住職たちに続く檀家の方々

 ご住職たちがお経を唱えて回っている途中で、心配していた雨が降り出してしまいました。その後本堂の中で、六斎念仏の一つであるハクマイが奉納されました。

お堂の中で六斎念仏を唱える六斎講の方々

 東佐味には六斎念仏の演目としてヘシン、バンド、ハクマイ、ソオロシ、シンバクマイ、シンコロの6曲が伝わっています。
奈良県指定無形民俗文化財パンフレット『東佐味の六斎念仏』に興味深い解説が載っていますので、一部を次に引用します。「かつては、御所市高天・伏見、五條市岡・近内・住川・居伝・小和・北山・久留野など、金剛山麓には多くの六斎念仏が伝承されていたが、昭和10年代から30年頃までの間に、ほぼ消滅した。この地域の六斎念仏は「高天念仏」であるといわれ、葛城修験の中心であった高天寺を拠点として、周辺に広まったと思われる。シンコロとよぶ曲をもつことが特徴のひとつで、そのほかは天野(和歌山県伊都郡かつらぎ町)をはじめとする高野山麓の六斎念仏と共通している。高野山麓での伝承が絶えた現在となっては、ほぼ完全に残る唯一の高野山系の六斎念仏である。」高野山麓では途絶えてしまったものが、奈良県の東佐味でほぼ完全に残っているなんて、今までよく伝えてこられたと頭が下がります。
六斎講では令和4年6月30日に『東佐味六斎ジャーナル』(年刊)の創刊号を発行し、フェイスブック「東佐味六斎」も立ち上げられたとのこと。そのフェイスブックに『東佐味六斎ジャーナル』や短い動画もアップするなどコロナ禍の中でも意欲的に発信しておられます。御所市の「奈良県無形文化遺産映像アーカイブ 『東佐味の六斎念仏』」でも音声動画を聞くことができます。
また2022年9月19日に奈良県立図書情報館で、奈良県の他の二か所で伝わる六斎念仏の方々とともに実演と講演が行われます。この応募はすでに締め切られましたが、YouTubeライブ配信があるようです。また同図書館で9月13日から25日の期間中、2階エントランスにて企画展も行われますので、こちらもどうぞ!
追記
 六斎念仏見学に先立ち、弥勒寺の裏山である峯山にある百体観音を参拝しました。いのしし除けの柵を開けて山中に入ると、参拝道に沿って、西国、秩父、坂東の観音霊場の計百体の観音様が赤い祠に祀られています。江戸時代に始まり、大正時代に整備されたもので、由緒はさらに遡るようです。速足で30分、ゆっくり歩いても1時間あれば参拝出来ます。お賽銭をあげると100円ずつでも10000円必要ですので念のため。

文・写真 西田裕美