正午には、鐘と同時に僧侶が吹くほら貝の音が響く=桜井市の長谷寺
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長谷寺(桜井市)の登廊(のぼりろう)を上りきったところに鐘楼がある。この鐘は「尾上(おのえ)の鐘」と呼ばれる。藤原定家(さだいえ)の歌「年を経ぬ 祈る契(ちぎり)は初瀬山(はつせやま) 尾上の鐘の よその夕暮れ」にちなむという。
また「未来鐘(みらいがね)」とも呼ばれる。昔ある信心深いがひどく貧しい男が「将来私の願いがかなったら、大きな鐘を奉納しましょう」と告げたところ、まわりから「未来の話か」と笑われた。その後観音様の霊験で出世し、約束通り大鐘を奉納したことから、こう呼ばれるようになったという。
鐘がつかれるのは毎日2回、午前6時と正午だが、正午の鐘の時は珍しい光景が見られる。鐘と同時に修行中の僧侶によって、ほら貝が吹かれるのだ。江戸時代の本居宣長(もとおりのりなが)は、清少納言も聞いたというこのほら貝の音に驚いた。
「名も高く はつせの寺の かねてより ききこし音を 今ぞ聞ける」
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静かな中に響く鐘の音を聞くのも古都奈良の楽しみ方の一つだろう。時の鐘を参詣者がつくことはできないが、除夜(じょや)の鐘なら参加できる寺院は多い。今年の大みそかには、近くの寺院で除夜の鐘をついて新年を迎えてみてはどうだろう。
(NPO法人奈良まほろばソムリエの会 石田一雄)
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