『万葉集』に「吾が背子をこち巨勢山(こせやま)と人は言へど君も来まさず山の名にあらし(巻七・一〇九七)」と詠まれた巨勢山の麓に阿吽寺(あうんじ)があります。歌の意訳は「愛しい人をこちらに来させる山と人は言うけれど、貴方は来ない。名前ばかりの山です」となります
平安時代に巨勢川が氾濫し阿吽法師に救われた里人が法師を崇(あが)めて古代豪族・巨勢氏の氏寺、巨勢寺に構えた玉椿精舎(ぎょくちんしょうじゃ)が阿吽寺の始まりと伝わります。本尊の十一面観音立像は、面相や衣文(えもん)の様式に藤原時代の雰囲気を残しています。
春には境内は椿一色に彩られます。多くの万葉ファンが「巨勢山のつらつら椿つらつらに見つつ偲(しの)はな巨勢の春野を(巻一・五四)」の風情を求めて訪れます。701(大宝元)年の秋、持統上皇の紀伊行幸で坂門人足(さかとのひとたり)が、椿の咲き乱れる巨勢の春の野を偲んだ歌です。
それ以前に春日蔵首老(かすがのくらのおびとおゆ)が詠んだ歌にある「つらつら椿つらつらに」「巨勢の春野」の<本歌取り>の古い例とされます。現代なら盗作問題になるのでしょうが、万葉びとのおおらかさを詠み人や選者に感じます。
【奈良まほろばソムリエの会 会員 田原敏明】
■宗派 単立
■住所 御所市古瀬361
■電話 0745・62・3346(御所市観光協会)
■交通 JR・近鉄吉野口駅から徒歩10分
■拝観 境内自由、本堂拝観は要予約3000円(30人まで)
■駐車場 有(無料)
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