わが国最古の寺院とされる飛鳥の法興寺(飛鳥寺)は、平城遷都とともに新しい都に移り元興寺と寺名を変えました。現在の奈良町の中心部にあたる広大な寺域に七堂伽藍(がらん)がそびえました。なかでも大塔(だいとう)と呼ばれる五重塔は回廊で囲まれ、僧坊も付属する東塔院として寺の一画を占めました。
中世になり国家の保護を受けられなくなると寺勢は次第に衰えますが、東塔院観音堂に安置された丈六観音像は民衆の信仰を集めます。京から長谷寺へ観音詣でする巡礼者が、その前に参拝したという記録が残ります。『大和名所図会』にも五重塔が描かれる奈良の名所として知られました。
しかし1859(安政6)年、民家の火事が燃え移り、五重塔も観音像も焼失しました。
塔跡は国史跡に指定され、三間四方の礎石がほぼそのままの形で残ります。心礎の下から鎮壇具(ちんだんぐ)とみられる勾玉、水晶玉などが出土し、重文になっています。所蔵の木造薬師如来立像(国宝)は平安時代初期を代表する仏像であり、木造十一面観音立像(重文、鎌倉時代)と共に奈良国立博物館に寄託されています。
【奈良まほろばソムリエの会 会員 池川愼一】
■宗派 華厳宗
■住所 奈良市芝新屋町12
■電話 0742・22・5218
■交通 近鉄奈良駅から徒歩約15分、またはバス「福智院」下車、徒歩約5分。JR奈良駅からバス「田中町」下車、徒歩約10分
■拝観 8〜17時、無料
■駐車場 無
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