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第34回へ                  第35回 2013年6月29日掲載                  第36回へ >
大淀町・桧垣本 ――熱い志が支える猿楽発祥の地
 
 県南部の大淀町桧垣本(ひがいもと)で長年にわたり、この地の歴史的な文化遺産を蘇らせ継承する活動が、関係者の熱い志に支えられて続いている。
 今年2月9日、同町文化会館「あらかしホール」で、一噌(いっそう)・森田・藤田流の「笛三流儀秘曲の会」が催された。わずか約40センチの能管(のうかん)一本でこれほどしなやかでバネのある音が出せるのかと、観客の多くは圧倒されたのではなかろうか。
 続く3月23日には、同館で「大和猿楽子どもフェスティバル〜ちびっ子桧垣本座卒業発表会」が催され、県内外の小学校からの出演もあり、大いに盛り上がった。
 世帯数7千戸弱の大淀町が、なぜ1年間にわたり、地元の小学生に笛や小鼓などの能楽のお囃子(はやし)や謡曲を教える活動を継続しているのか。それはここが能楽に発展した桧垣本猿楽発祥の地であるからだ。


昨年催された「ちびっ子桧垣本座卒業発表会」=大淀町
 桧垣本座という歴史的な文化財産を現代に蘇らせ継承する企画で、大阪の小鼓方大倉流宗家大倉源次郎師、名古屋の能楽笛方藤田流宗家藤田六郎兵衛師をはじめ、多くの能楽関係者の支援を得ている。
 特に桧垣本が能楽師にとってとても大切な場所とのことから、能楽振興のために一流の能楽師が流派を超えて立ち上げた「能楽座」にいたっては、大淀町での公演が12回となる。大倉源次郎師が監修する「ちびっ子桧垣本座」の卒業発表会は11回を数えるまでになった。
 大淀町は、自国の伝統文化を理解することが異文化理解の基盤に繋がると主張する。ともすれば教育にまで利益や採算性の尺度を持ち出す現代の風潮の中で、伝統芸能を継承する活動は大変なことだろう。



桧垣本座の説明板が設けられている桧垣本八幡神社=大淀町
 桧垣本座の歴史についての詳しい説明板は、ホール南側にある桧垣本八幡神社に設けられている。近鉄下市口駅北側の高台に立地する美しい神社だ。
 今は視界が木々に遮られているが、かつては眼下にこの地の舟運(しゅううん)を担った吉野川、東を向けば伊勢と大和の国境にそびえる高見山の秀峰を望むことができた。ここに立てば、古代から近世まで、この地が占めた地の利を実感することができる。
 「なぜ、この地で猿楽が起こったのか」という疑問に対し、大淀は吉野・熊野・高野という神仏の聖地への入り口であり、大和と紀州・伊勢を結ぶ文化の回廊が交差する所であったのがヒントとなる。
 同町教育委員会学芸員の松田度(わたる)さんは「南大和の高地から見ると、国中(くんなか)(大和盆地)から見る大和の歴史とは違ったものが見えてきて面白いですよ」と謎かけする。
 9月7日には、第13回能楽座大淀町公演で梅原猛原作の「スーパー能・世阿弥」の公演が予定されている。東京国立能楽堂に続いての公演で、超一流の出演者ばかりだ。能楽が初めての人でも親しめる現代日本語での公演となるだろう。
 今年は世阿弥生誕650年記念の年。9月7日には1人でも多くの方が会場のあらかしホールへ足を運び、熱い志に支えられた一流の芸に触れてもらいたい。

(NPO法人奈良まほろばソムリエの会 藤村清彦)
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