奈良市の奈良ドリームランド跡地や、その北側の丘陵は古来、黒髪山と呼ばれてきました。小高い所に黒髪山稲荷神社があります。
山名には悲話が伝わります。第11代垂仁天皇の皇后だった狭穂(さほ)姫は兄の狭穂彦が謀反を起こした時、皇子を出産。狭穂姫は皇子を天皇方に渡して逃げようとし、追っ手に捕まらないよう髪を切り、この山に埋めたといいます。
神社近くに宮内庁管理の那富山墓(なほやまぼ)があります。後に基(もとい)王と呼ばれた聖武天皇の皇子が728(神亀5)年に早世して葬られたといわれています。静かな中に天皇らの悲しみが伝わってくるようです。
時は下って明治時代、京都府南部と奈良を結ぶ「大仏鉄道」の建設で、1898(明治31)年に長さ86㍍の黒髪山トンネルが掘られました。しかし、急坂の難所のためわずか9年で廃線。1966(昭和41)年ごろ、道路拡張で切り通しとなり、トンネルは姿を消しました。
興味深い歴史に彩られた黒髪山、気軽に訪ねてみませんか。
【奈良まほろばソムリエの会理事 久門たつお】
|