楢(なら)神社の鳥居は珍しい銅製で、奈良町と桜井を南北に結ぶ古道「上街道(かみかいどう)」に面しています。江戸時代は長谷寺(桜井市)に参拝する「初瀬詣(はつせもう)で」や伊勢参りの人が行き交う信仰の道でした。
祭神は五十狭芹彦命(いさせりひこのみこと)と、子授けの神である鬼子母神(きしもじん)の2柱。日本書紀によると、五十狭芹彦命は第七代孝霊(こうれい)天皇の皇子。崇神(すじん)天皇が東海など4方面に派遣した「四道(しどう)将軍」の一人で、山陽道を平定し、吉備津彦命(きびつひこのみこと)と、たたえられています。
社殿は檜皮葺(ひわだぶ)きで、方一間(ほういっけん)(一辺の柱間が一つの正方形)の春日造り(切妻屋根で、棟と直角な面に入り口がある様式)。1862(文久2)年、春日大社の式年造替で払い下げられ、氏子が担いで帰ったと伝わります。
境内には井戸「実増井(みますい)(三桝井(みますい))」があり、歌舞伎役者の八代目市川団十郎が1848(弘化5)年、井戸の囲い「井筒」を奉納しました。その前面には桝三つ重ねの紋章を刻み、他の面には「ならの葉の広き恵みの神ぞとは 此(こ)の三益井(みますい)を汲(く)みてこそ知れ」の歌と一族の名が刻まれています。この井戸水は子宝を授かる霊水と言われています。
例祭は10月10日で、翌11日には天理市にある元の鎮座地・上の宮(神明(しんめい)神社)へ神輿(みこし)の渡御があります。
(奈良まほろばソムリエの会会員 石田一雄)
(住所)天理市楢町443
(祭神)五十狭芹彦命(いさせりひこのみこと)、鬼子母神(きしもじん)
(交通)JR桜井線櫟本(いちのもと)駅から北東へ徒歩約10分
(拝観)境内自由
(トイレ)あり
(駐車場)なし
(電話)なし
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