2020年、室生寺は「女性とともに今に息づく女人高野~時を超え、時に合わせて見守り続ける癒(いや)しの聖地~」として、日本遺産に認定されました。
奈良時代末期、山部親王(のちの桓武天皇)の病気平癒のため、室生の地において延寿法を修したところ回復したので、興福寺の僧・賢璟(けんけい)が朝廷の命でここに寺院を建てることになったと言われています。
その後、江戸時代に五代将軍徳川綱吉の母桂昌院が室生寺を興福寺から離し、真言宗豊山派として以来、弘法大師信仰が高まり発展しました。
女性の入山が許されていなかった高野山に対し、室生寺は参拝を受け入れたため「女人高野」と呼ばれ、女性の信仰を集めるようになりました。
千年以上もの間、人々の祈りを受け止めて来た木造釈迦(しゃか)如来坐像(国宝)や木造十一面観音菩薩(ぼさつ)立像(同)は昨年完成した「寳物殿(ほうもつでん)」に安置されています。気温や湿度が適正に保たれていますので、また次の千年も人々を優しく見守り続けてくださることでしょう。
春に石積みの階段、鎧(よろい)坂の両側で咲くシャクナゲや秋の紅葉はもちろん、積雪に包まれた五重塔(国宝)の美しいたたずまいは、参拝者の心を魅了します。
霊験あらたかな信仰の地で、四季の移ろいを感じながら静かに手を合わせ、明日の安らぎを願うのはいつの世も同じ。安寧を願い万人の幸せを祈られたであろう桂昌院の心に思いをはせ、これからの新しい暮らし方の中で、心穏やかに笑顔で過ごせることを祈ります。
(奈良まほろばソムリエの会理事 松浦文子)
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