1200年以上の歴史をもつ奈良の茶「大和茶」発祥の地といわれる仏隆寺は、平安時代前期の850年(嘉祥3年)に弘法大師・空海の弟子、堅恵(けんね)により創建されたと伝わります。
「大和三名段」の一つとされる197段の石段や樹齢900年を超えるといわれる門前の「千年桜」で有名な古刹(こさつ)です。
茶の栽培は各地に伝承されていますが仏隆寺は最も古く、806年(大同元年)に空海が唐から持ち帰った茶の種子を堅恵に与え、「苔の園」という茶園を造ったことが始まりとされています。
本堂には、空海らが茶と一緒に持ち帰ったと伝わる茶うすが寺宝として現存し、本堂周辺には大和茶ゆかりの地にふさわしく、野生化した茶の木が自生し、「大和茶発祥伝承地」と刻まれた大きな石碑が立っています。
本堂の背後には堅恵の墓とされる石室があり、重要文化財に指定されています。
奈良をルーツとする茶は、宮中や寺院の儀式の場で用いられるようになり、室町時代には奈良出身の茶人で「わび茶の祖」として知られる村田珠光(じゅこう)が、茶道の基礎をつくりました。以来、県北東部の大和高原一帯は、日本でも有数の茶の産地として発展してきました。道沿いからは、山の斜面に整然と広がる茶畑を見ることができます。
奈良の茶は現在、県の農業をけん引する「リーディング品目」の一つに位置づけられ、奈良市や山添村を中心に、宇陀市、天理市、大淀町、東吉野村などで栽培され、良質な煎茶やかぶせ茶などが生産されています。
(奈良まほろばソムリエの会会員宮崎浩行)
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