柿の葉寿司は、紀州(和歌山県)から吉野川(紀ノ川)の舟運(しゅううん)などで運ばれてくる塩サバを3枚におろし、薄くそいだ切り身を一口大に握った酢飯に載せ、柿の葉で包んで押しをかけたものです。
今はお店で買いますが、もともと県内では吉野川流域や流域に近い御所市、高市郡などの各家庭で、夏祭りなどハレの日に作っていました。
県境に隣接する和歌山県の伊都地方でも、秋祭りの時期などに作ります。柿の産地である両地域の伝統的な行事食(祭り食)だったのです。
海から遠く離れたこれら地域にとって、川をさかのぼって運ばれてくるサバなどの海産物は、とても貴重なごちそうだったのでしょう。
食通で知られる谷崎潤一郎も、「陰翳礼賛(いんえいらいさん)」で柿の葉寿司を絶賛しています。ただし谷崎が食べた柿の葉寿司は、サバではなく新巻鮭だったそうです。さすがに文豪は、高価な食材を使ったのでした。今ではタイやアナゴの柿の葉寿司も、市販されています。
吉野山では専門店のほか飲食店でも、個性豊かな柿の葉寿司が作られ、販売されています。
柿の葉寿司は2007年度、農林水産省の「農林漁村の郷土料理百選」に選定されました。
柿の葉寿司を包む柿の葉は、防腐作用のあるタンニン(ポリフェノール)が多く緑色が鮮やかな渋柿の葉が使われます。口に入れると柿の葉の爽やかな香りが広がり、酢飯とのコントラストが絶妙です。秋には紅葉した柿の葉も使われ、目を楽しませてくれます。
(奈良まほろばソムリエの会会員 浅井博明)
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