奈良の人々にとって、春日若宮おん祭は年末の大きな楽しみです。春日大社若宮神社のこの祭礼は、平安時代の保延2(1136)年に関白、藤原忠通(ただみち)が五穀豊穣と国民安寧を祈願して始めたとされます。連綿として続いており、国の重要無形民俗文化財に指定されています。
若宮神社の祭神、若宮様は正式には天押雲根命(あめのおしくもねのみこと)で、春日大社本殿の第三殿の天児屋根命(あめのこやねのみこと)と第四殿の比売神(ひめがみ)の間に生まれたとされます。本殿の南に若宮神社本殿があります。大和(やまと)士(ざむらい)がこもって精進潔斎をしたという大宿所(おおしゅくしょ)が餅飯殿(もちいどの)センター街の中にあり、毎年12月15日には御湯立(みゆたて)の儀など神事が行われます。
続いて17日未明に、若宮様が多数の神職に守られ、若宮神社から御旅所に移られ、遷幸の儀と暁祭(あかつきさい)が行われます。正午ごろから呼び物のお渡り式。最後の大名行列は大変な人気です。
一の鳥居を東に入って、すぐの所で「松の下式(したしき)」があり、その後、御旅所で神楽、東遊(あずまあそび)、田楽、細男(せいのお)、猿楽、和舞(やまとまい)、舞楽などの神事芸能が奉納されます。大陸から伝えられたという舞楽、古くから日本に伝えられた細男など、おん祭でのみ演じられる芸能もあり、まさに生きた芸能史です。
若宮様はその日のうちに、再び若宮神社に帰られる還幸の儀が行われます。翌18日には後宴能(ごえんのう)が行われ、おん祭はフィナーレとなります。
2021年はコロナ禍のため、おん祭は神事を中心に関係者のみで行われます。若宮神社本殿は現在ご造替(ぞうたい)中で、22年秋に完成します。
(奈良まほろばソムリエの会理事 松森重博)
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