役行者(えんのぎょうじゃ)(役小角(えんのおづぬ))は飛鳥時代に実在した人物で、修験道の開祖です。その伝説はまるでアニメ主人公のような活躍ぶり。前鬼(ぜんき)、後鬼(ごき)を弟子に従えて山岳地で修行したり、鬼神を使って金剛山と吉野の大峯山に橋を架けようとしたり、空を飛び回ったりする超人伝話が残されています。江戸時代、光格天皇から神変大菩薩(じんべんだいぼさつ)の諡号(しごう)(贈り名)が贈られました。
役行者の修行した金剛山、葛城山を望む御所市茅原(ちはら)が役行者の出生地とされます。現在その地には役行者開基と伝わる吉祥草寺(きっしょうそうじ)があります。
平安時代には理源大師聖宝(りげんだいししょうぼう)がこの寺を再建し、広大な境内に49の子院を擁する大寺院として隆盛を極めました。南北朝時代に兵火で全て焼失しましたが、本堂は室町時代前期の再建と伝えられます。開山堂には等身を超える木造の役行者三十二歳像・前後鬼坐像(ざぞう)が祀(まつ)られています。
役行者に縁の深い行事が県指定無形民俗文化財「金峯山寺の蓮華会(れんげえ)(蔵王堂の蛙(かえる)とびと奥田の蓮(はす)取り)」です。吉野町の同寺も役行者の開基で、世界遺産。毎年7月7日、役行者の母白専女(しらとうめ)が住んだとされる大和高田市奥田にある蓮池で蓮を刈り取り、これを同寺の蔵王堂に運び、本尊の木造金剛蔵王大権現(だいごんげん)などに供えます。
吉祥草寺で毎年1月14日に行われる雌雄一対の豪壮な左義長(さぎちょう)が「茅原のトンド」です。1300年を超える歴史を伝える県指定無形民俗文化財。修験道寺院の修正会(しゅしょうえ)と農村行事が結びついたトンドをぜひご覧いただきたいと思います。
(奈良まほろばソムリエの会会員 福岡康浩)
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