正倉院は、元は役所や寺院の主要な倉庫「正倉」が立ち並ぶ一郭(いっかく)を指す言葉でした。現在は東大寺の正倉だけが残り、固有名詞になりました。
正倉院は3室あり、北倉と南倉は三角材を井桁に組んだ校倉(あぜくら)造り。中倉は北倉と南倉の壁を南北で利用し、東西は板をはめた板倉造り。光明(こうみょう)皇后は756(天平勝宝8)年、聖武天皇の遺品六百数十点を廬舎那仏(るしゃなぶつ)に献納され、それは北倉に、東大寺関係の宝物は中倉と南倉に納められました。
1200年以上前の品が伝わるのは、建物が高床式であったこと、宝物が脚付きの唐櫃(からびつ)(辛櫃とも。杉製)で管理されて湿度変化に対応できたこと、天皇の許しがないと宝庫を開けられない「勅封」で厳しく管理したためです。国宝で、世界遺産に登録されています。
名前に東大寺の3文字が隠れている有名な香木「蘭奢待(らんじゃたい)」は、正式には「黄熟香(おうじゅくこう)」と呼ばれ、樹種は伽羅(きゃら)で、長さ156センチ、重さ11・6キロ。中倉に薬物として鎌倉時代以前に納められたと考えられています。産地はインドシナとされますが、入手経路は不明です。
蘭奢待には足利義政、織田信長や明治天皇らが切り取らせた箇所があり、付箋が付いています。信長は1574(天正2)年、勅許を得て、唐櫃ごと正倉院北方の多聞城(たもんじょう)に運ばせ、「一寸四分(約4センチ)」の2片を切り取り、1片は正親町(おおぎまち)天皇に献上し、1片は自分が所持しました。
蘭奢待は過去の正倉院展で大きな関心を集め、最近では2011年が14年ぶり4回目の出陳でした。次回が楽しみです。
(奈良まほろばソムリエの会会員 竹内和子)
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