世界遺産・薬師寺の国宝・東塔(とうとう)は、平城京の現存する最古の建物です。2020年12月、約12年間にわたる解体修理を終え、塗り替えられた白い壁が青空にひと際鮮やかです。
高さは約34メートル。大小六つの屋根があるように見え、六重塔に間違えられますが、三重塔です。大きな屋根のそれぞれ下にある小さな飾り屋根は「裳階(もこし)」と呼ばれ、風雨から建物を守っています。大きい屋根と小さな裳階が交互に連なるバランスが美しく、リズム感があります。このため、東塔は、建物を音楽に例えた「凍(こお)れる音楽」との愛称で親しまれています。
薬師寺は、天武天皇が皇后(後の持統天皇)の病気平癒を願い、藤原京に建立を発願(ほつがん)されました。皇后は回復しますが、今度は天武天皇が病に倒れ、薬師寺の完成を待たずに亡くなります。持統天皇は天武天皇の遺志を継ぎ、薬師寺を完成させました。その後、平城遷都に伴い、現在の西ノ京に移転しましたが、長い歴史の中で多くの堂塔が火災や地震で失われ、東塔が約1300年前の創建当初から残る唯一の建物になりました。
1968年、お写経勧進(かんじん)による白鳳伽藍(はくほうがらん)の復興を始めた高田好胤(こういん)和上は「大きな屋根は天武天皇、小さな裳階は持統天皇。東塔は天武天皇が持統天皇を優しく守っておられるお姿です」と話されたそうです。
21年3月から22年1月16日まで東塔初層が特別開扉され、普段は見られない心柱を拝観できます。また、大修理完了記念の「東塔おみくじ」を東僧坊の授与所で引けます。
(奈良まほろばソムリエの会会員 山﨑愛子)
|