県の最南端に位置する十津川村。豊かな自然あふれる村に「谷瀬(たにぜ)の吊(つ)り橋」はあります。長さ297メートル、高さ54メートル。生活用の吊り橋としては日本一の長さを誇ります。
同村観光協会によると、造られたのは60年以上前の1954(昭和29)年。それまでは川に丸木橋を架けていましたが、洪水のたびに流されるため、地元の人が1戸当たり20万~30万円を出し合い完成させました。まさに生活のための橋です。
当初、村人だけが利用していましたが、次第に世間の注目を集め、今では十津川村を代表する観光地になりました。それは、渡ること自体を楽しめる、スリル満点の橋だからです。
入り口には「一度に20人以上はわたれません」という注意書き。一歩踏み出すと、橋は途端に揺れ始め、床板がギシギシと音を立てます。歩く人が多いと、揺れ方が不規則になり、思うようにバランスを保てません。足元から、はるか下の十津川が丸見えで、思わず足がすくみます。普段の生活では味わうことのできない体験です。2021年には土木学会選奨土木遺産に認定されました。
対岸の谷瀬地区には「ゆっくり散歩道」が整備され、展望台まで進めば、吊り橋を一望することができます。
南朝の史跡「黒木御所跡」も見逃せません。後醍醐天皇の皇子・大塔宮護良(おおとうのみやもりよし)親王がこの地に逃れた際、かくまわれたとされる仮宮殿(かりきゅうでん)跡です。
ぜひ橋に足を運んで、ドキドキ感と絶景を満喫してください。きっと非日常の素敵(すてき)な思い出を残してくれると思います。
(奈良まほろばソムリエの会会員 礒兼史洋)
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