高取町にある壷阪寺(つぼさかでら)正式名は南法華寺(みなみほっけじ)は西国三十三所の六番札所で、眼病にご利益があることで知られています。「壺坂観音霊験記」(つぼさかかんのんれいげんき)は、盲目の沢市(さわいち)と妻のお里(さと)の夫婦愛を描いた明治時代に作られた人形浄瑠璃(文楽)の演目で、歌舞伎や講談、浪曲でも演じられ人気を集めました。お互いを思いやるがゆえに生じた夫婦の悲劇を壷阪寺の本尊である十一面観音が救済するお話です。
沢市はお里が明け方に出掛けていくのに気付き、男ができたのではと疑いますが、沢市の目が治るように壷阪寺の観音さまに願掛けに行っていたと知ります。それを恥じた沢市はお里とともに壷阪寺へお参りをしますが、目の見えない自分がいては将来お里の足手まといになると考え、谷に身を投げてしまいます。それを知ったお里も沢市のあとを追って身を投げますが、夫婦愛を聞いた観音さまが現れ、二人は息を吹き返し、沢市は目が見えるようになるという物語です。
壷阪寺本堂横には、その沢市とお里が身を投げた投身の谷と言い伝えられている場所があります。高取町下子島の信楽寺(しんぎょうじ)には沢市とお里とのお墓があります。
【奈良まほろばソムリエの会理事 大山恵功】
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