保存継承グループ 御所市茅原 吉祥草寺「茅原のトンド」見学記

御所の吉祥草寺(役行者が誕生した寺と伝えられる)で毎年1月14日に行われる茅原のトンド(左義長)は県内最大のトンド焼きです。大宝元年(701)から続き1300年以上の伝統を誇る行事で、奈良県指定無形民俗文化財に指定されています。

昔は雄の松明を作る玉手地区、雌の松明を作る東寺田地区、松明を支える杭などを立てる茅原地区の3つの地区が役割を分担していましたが、昭和38年に東寺田が抜けてからは茅原が雌の松明を作っています。行事直前の日曜日にトンド作りが始まり、まず茅原が雌雄2本のトンドを支える杭を境内に設置し、雌のトンドを組み立て、行事当日の朝からは玉手が雄のトンドを作ります。

高さ6メートルともいわれる巨大な松明はどのようにして作られるのか、当日午前中から吉祥草寺を訪ね、雄のトンドを組み立てる様子などを見学させていただきました。

松明の上部に締める鉢巻、土台となる扇、松明の芯などをそれぞれ別の場所で分担して作成しています。

鉢巻は太さ約30センチで30メートルを超す長さです。等間隔にわら縄で縛って、でんでんむしと呼ばれる結び目をつくります。作業をしている人によると、この結び目は蛇のうろこをあらわしているとのこと。長さもあるため手間のかかる作業です。

鉢巻作成の様子

扇は短い竹と長い竹が帯状に組まれたもので、トンドの土台となります。竹の本数は38本でうるう年は1本多いとか。竹の上にわらを敷き、上部に飾りとなるわら飾りや、かや飾りをつけます。

扇(トンドの土台)の作成

いくつもの柴の束をまとめ、しっかりと巻いて締め、松明の芯を作ります。

扇にクレーンを使って、松明の芯をのせ、巻いて、根元をまとめます。雄の松明の上部にはシンボル部分の竹を打ち込みます。

クレーンを使用し、扇に松明の芯をのせる

巻かれた松明に鉢巻と腰縄を巻きます。地区の人総出で鉢巻をひき、慣れた人の指示に従って、しっかりと引き締め結びます。雄雌で結び方が異なります。

鉢巻を締める様子

完成した松明はクレーンで立てられます。竹で周りから支え、しっかり固定し、上部の飾りも整えます。当然といえば当然ですが、昔は松明をたてる作業も人力で、また別の場所で作っていたため、寺まで運んでいたそうです。

クレーンでもちあげられ立てられる松明

ここまで見学したところで、本堂で修正会の法要が始まったので、法要に参加させて頂きました。トンドの日は正月から続く法要の結願の日なのです。僧侶の方とともに山伏もお堂に入場し、ほら貝を吹き鳴らします。本尊の不動明王さんを見上げて祈っていると忿怒の表情がなぜか穏やかに見えてくるから不思議です。

修正会の法要のあとしばらくして、本堂では護摩供養がはじまりました。願いの込められたたくさんの護摩木が火にくべられていきます。

護摩供養

お堂から出るころには雌雄のトンドが立ち並び、すっかり準備がととのっていました。このまま夜を待ちます。

やがて夜になり、玉手、茅原の両地区を出発した行列が吉祥草寺の近くで合流し、手打ちをして出合いの式を行なった後、修験者の先導のもと午後8時ころ吉祥草寺にやってきました。人も増え、夜店もでて参道はとてもにぎやかになっています。

般若心経の読経がつづくなか、いよいよ点火されます。

点火の様子

さすが奈良県最大のトンド、大迫力です。今年は天気もよく、大きく燃え上がっています。炎が夜空を明るく照らし、冬の夜の寒さをふきとばす熱が感じられます。

あれだけ手をかけて作ったトンドですが、30分ほどで燃え尽きてしまいました。トンドの間を無病息災を願いながらお渡りして、行事は終了です。

お渡りの様子

昔から続く祭礼の中には男性しか参加しか出来ない行事も多いのですが、こちらのトンド行事は男性も女性もそれぞれの役割をこなし、また年配の人が若者に声をかけながら作業するなど、地域における保存継承のひとつのあり方を見ることができました。こうして、多くの人が協力しながら行事を作りあげていく様子を目の当たりにし、地域の方々のご尽力を知ることができたことは大きな収穫でした。

夜空を焦がすトンドの炎を見つめながら、どうかこの行事と地域の人々の絆が末永く続きます様にと願わずにはいられませんでした。

*トンド作成時の写真は雌雄が混在しています。

参考:奈良祭時記(奈良県)、御所市提供パンフレット

保存継承グループ 文:横山真紀子 写真:大谷巳弥子、本井良明、横山真紀子