奈良市:正暦寺「冬至祭」見学記

12月22日、前夜からの雨が残るなか、奈良市東南の山間・菩提山(ぼだいせん)町に建つ古刹、正暦寺(しょうりゃくじ)の「冬至祭」に参加。
冬至といえば、一年のうちで最も昼が短く夜が長い日。一年で一番日照時間が短いということは、翌日から長くなるということであり、この日を境に再び力が甦り、運気が上昇するともいわれる。
そして、冬至で食べる食べ物でといえば「カボチャ」。長期保存がきくため、栄養満点の食材として、風邪や中風(脳血管疾患)の予防に良いとして食べられてきた。運気アップのパワーを蓄えてくれるということだろうか?
正暦寺「冬至祭」は、1952(昭和27)年(先々代住職在世時)から、中風封じの行事として始められた。現在は健康祈願や長寿を願う行事になり、この日も多くの参拝者で賑わう。

午前10時から護摩堂にて不動明王像の前で、一人ずつ順番に護摩祈祷とお加持が修法される(申込者のみ)。

11時から、客殿にて大原弘信住職の法話。テーマは「五Kで生きる=明るく軽やかに」。五Kとは、
●Ka=か・・・感動
●Ki=き・・・希望(夢をもち、夢を語りましょう)
●Ku=く・・・工夫
●Ke=け・・・継続(続けることによってわかる)
●Ko=こ・・・行動(動いていれば何かが起こる。考えたら動くこと)

「思いがあれば、思いに向かって行動しましょう。いいことをしていると、明るく軽やかになってきます。それがいい結果につながる」と住職は話す。
分かりやすくて、深い内容の法話に、参拝者たちは一心に聞き入る。

法話の後、客殿の障子が開けられると、枯山水の庭が雨上がりのなかで輝いている。今年、松の木が枯れたのを機に、庭の木を低く剪定したため、90年ぶりに庭を囲む白壁が姿を見せ、清々しい昔の庭が甦ったとのこと。
特別開扉されている瑠璃殿(宝物収蔵庫)では、秘仏の金銅の薬師如来倚像(白鳳時代・国重文)を拝観。

締めは、カボチャの精進弁当(要予約。1、000円)をいただく。精進料理で人気の正暦寺だけあって、カボチャづくしのおいしいお弁当だった。
良い年を迎えられる、いい気を十分にいただいた「冬至祭」だった。

※正暦寺は992(正暦3)年、一条天皇の勅命により創建。山号は「菩提山」。創建当初は、堂塔・伽藍を中心に86坊の塔頭が渓流をはさんで建ち並び、勅願寺としての威容壮麗を誇っていた。しかし、1180(治承4)年、平重衡の南都焼き討ちの際、その類焼を受け、全山全焼、寺領は没収され一時は廃墟と化す。1218(建保6)年、興福寺の学問所として再興し、昔に勝る隆盛を極めたが、江戸時代以降は再び衰退。ほとんどの堂塔・伽藍は失われ、現在では、福寿院客殿と本堂・鐘楼を残すのみとなった。
古来より紅葉の鮮やかさから、「錦の里」と呼ばれてきた。主要な伽藍は失われてしまったが、静かな宗教空間は昔と変わらず当寺山内に存在している。
また、室町時代は大量の「僧坊酒」を作る筆頭格の大寺院であり、清酒製法の祖とされる正暦寺。1996(平成8)年から菩提酛(もと)を用いた酒を復活し、毎年1月に酒母の仕込みを行っている。

文と写真  保存継承グループ  小倉つき子