保存継承グループ 文化財防災に関する講習会

保存継承グループは7月18日に奈良市消防局第2庁舎(奈良市八条)において文化財防災に関する講習を受講しました。

当グループのメイン活動「奈良の文化財を後世に伝えていく」ためには、まず、いかに火災から文化財を守るかが問われます。しかしながら数々の指定文化財の取材を進めてきた中、防火や防災の知識を充分に知らずにいたことへの反省が、当グループ定例会で意見が交わされていました。

この度、文化財防災官や奈良市消防局のご協力で、文化財を火災から守るための様々な取り組みについて教わる機会をいただきました。6月入会の新メンバー8人を含む当グループ22人が、若い消防局の方々の熱心な説明と、行き届いた諸活動の実態を学ぶことができました。

講習会は2部構成で、第一部は講義や質疑応答。第二部は屋外で消防車両などを見学しました。

講義では昨年度の奈良市内の火災件数や、過去の文化財火災の実例、法規・奈良市の条例、消防用設備や防火設備などを、模擬機を使って説明していただきました。また、実際の防災訓練の様子を映像で見せていただきました。

昔から住宅火災の主な原因は、たばこ、コンロ、ストーブなどですが、最近は電気配線の劣化による漏電火災も増えているそうです。(私も帰ってさっそく電気製品のコンセント周りを点検したのは言うまでもありません)

これは奈良市消防局の秘仏「まもろう君」。

文化財を守るという観点から、「まもろう君」という防災訓練用のための、仏像をかたどった彫刻が置かれていました。台座から光背を含めた高さ約218㎝、総重量約63kgのケヤキの木彫です。過去の東大寺戒壇院千手堂の火災での経験をきっかけに作られたそうです。火災が発生すると煙が蔓延し視界は不良に。ましてや瓦などが多数落下する中、手探りで仏像を確認し守りながら搬出しなければなりません。その時の大変だった経験を生かそうと、模擬の仏像を作り、訓練されているのです。

「まもろう君」を使って実際に仏像の搬出訓練を体験しました。

光背、頭部、手部、台座などを外します。

頭部や手部等小さな部位は専用バッグに入れ、胴部は専用タンカに乗せます。

このタンカは防炎性能と耐熱性に優れた布を使用した、仏像搬出専用です。これも火災の火の粉や高温熱から少しでも守りたいという思いから作られました。

いざ、搬出! 胴部は約30kgあります。

第二部は消防車両の見学です。

同じ敷地にある南消防署で水槽付ポンプ車を見学しました。

この車両は1500リットルの水を積んでいます。一般家庭用の浴槽8杯分に相当しますが、火災現場での放水はたったの3分で使い果たされるそうです。

火災現場では、防火服、空気呼吸器、ホース、ノズル等あわせておよそ40kgの重装備になるとのこと。つまり、消防士さんは小学校高学年の児童くらいの重さのものを身にまといながら消火活動をされるということです。

最後に、消防救助技術の訓練も見せていただきました。消防界の甲子園と呼ばれている全国消防救助技術大会の近畿地方選考会にむけて訓練されているところを特別に見せていただいたのです。2分以内にカベを越え、ロープで渡り、通路を抜けるという、身のこなしは忍者さながらです。私たちも「目指せ!優勝」とのエールをこめ、拍手を送りながら見学させていただきました。

火災から命や財産を守るために必要なことを学んだ講習会でした。

この日の奈良市の最高気温は36.3℃と猛暑日でしたが、市民の安心安全や文化財を命がけで守る人たちの猛暑以上の熱意が伝わった、とても有意義な時間を過ごしました。

奈良市消防局のみなさま、ありがとうございました。

保存継承グループ  文章:東辻裕子  写真:西野稔・東辻裕子