保存継承グループ 奈良市:春日大社の「春日祭」見学記

春日祭(かすがさい)は「三大勅祭」の一つとして、京都の葵祭、石清水祭と共に皇室が関わる伝統祭礼上、重要な役割を果たしてきました。春日大社は藤原氏の氏神だったことから、春日祭は藤原氏のための祭事という側面も有していました。現在ではその色合いはなくなりましたが、勅使参向という意義は変わりません。勅使とは天皇陛下の名代(使者)であり、勅祭とは名代が神社に派遣されて実施される祭礼のことで、国家の安泰と国民の繁栄を祈る祭事として実施されています。
祭事は平安時代の嘉祥2年(849年)に始まりました。平安時代は行事の規模は大きかったのですが、中世以降は次第に規模も縮小し、明治以前には年2回、2月と11月の最初の申(さる)の日に実施されていたようです。そのため春日際は申祭(さるまつり)とも呼ばれてきました。
現在では年1回、勅使をお迎えする祭事として3月13日に行われています。儀式は9時から宮中より天皇陛下の名代である勅使のお迎えして、参道から神殿には新しい砂が敷かれ、勅使がその上を歩き神殿に向かいます。(春日祭の由緒・歴史・祭事の内容は「奈良まちあるき風景紀行」より抜粋)

春日祭当日には一之鳥居に榊が飾りつけられます。

祭事が行われる参道には新しい砂が敷かれ、見学の方はロープの手前で祭事を見守ります。

祭事のための神饌(お供え物の食事)を運び本殿に向かいます。

天皇陛下の勅使を迎え、新しい砂を敷かれた上を歩き祭事を行う本殿に向かいます。

2頭の神馬も本殿に向かいます。

10時から勅使以下が斎館を出て、祓戸の儀、著到の儀を経て幣殿・直会殿の作合の座につき、下記の儀式を行い、正午過ぎに祭儀が終了するスケジュールで行われます。
・御棚奉奠(みたなほうてん)
・御幣物奉納(ごへいもつほうのう)
・御祭文奉上(ごさいもんそうじょう)
・神馬牽廻(みうまのけんかい)
・和舞奉奏(やまとまいほうそう)
・饗饌(きょうせん)
・見参(げざん)
・賜禄(しろく)

神馬牽廻(みうまのけんかい)のために神域に入る神馬。

本殿では式次第に従って祭事が執り行われています。

雅楽の音色が流れる中、神への舞が執り行なわれています。

一般の参加者は本殿前に立ち入り禁止のロープ手前で中の様子を伺っています。午前9時から始まった神事も正午過ぎには終わります。本殿前の階段は邪魔にならないように、道を開け静かに見守ります。

無事、平成最後の春日祭が執り行われ、本殿から出てこられました。

祭事の見学中、隣の婦人とのおしゃべりで、「千葉から祭礼の見学に来ました。昨日は二月堂のお水取りで、今日は春日祭。奈良は古式ゆかしい行事が数多く残り、うらやましい限りです」と最大の誉め言葉を頂きました。
早朝からの風雨が収まり、祭事を待つこと1時間余りの待機も苦にならず、かえって参道が雨で清められ祭事の雰囲気が増した感がありました。待つ時間が心地良い「奈良時間」に身を置くことで、伝統の祭事を堪能することができました。

文・写真 保存継承グループ 橋詰 輝己