保存継承グループ「大和の祭礼見学・4月」(新薬師寺おたいまつ)

4月8日実施 参加者5名

桜の咲く時期に行われる「おたいまつ」があります。奈良市の新薬師寺の修二会において、お堂に入る僧の方たちの足元を照らす火のことです。
去る4月8日。明るいうちから撮影の場所取りの人がちらほら集まり始めました。通常拝観が終わると境内が解放され、参拝客が幾重にも取り囲む広場の向こうには、薬師如来を拝むことができます。

正面が開扉された本堂
籠松明が準備されている

19時頃、雅楽が奏され合図の鐘の音が鳴り響くと、燃えさかる松明が一本ずつ、本堂前を向かって左から右へとやって来ます。華厳宗のこのお寺の修二会には東大寺からもお坊さんが来られ、童子の方が時々松明を回して火の粉を振り落とす様も二月堂のお水取りと同じです。ただ、東大寺の場合と異なるのは、それが地上、私たちのすぐ目の前で行われるということ。最前列にいるとかなりの迫力です。燃えやすい素材の服やよそ行きは着て行かない方が安全かも知れません。

松明の後ろに僧侶の姿
人々の前で火の粉が振り落とされる

新薬師寺のおたいまつは計11本、ラストが少し大きい籠松明で、これだけ音も違うように感じました。僧の方々が全員中に入られるとおたいまつは終了し、ここで半数以上の人が帰って行きます。が、私たちは本堂の中へと入ります。これから神名帳が読み上げられるのです。
東大寺では、聴聞できるのは外陣から、女性であればさらに隔たった場所からとなります。ここでは過去帳の読み上げはないのですが、朗々と響き渡る「〇〇大明神…」を間近で体験することができました。
この行事はご本尊の薬師如来に過ちを悔い、また世が安らかであるよう祈るもので、桜のもとで行われるせいか、小規模ではあるもののどことなく華やいだ雰囲気があります。20時半頃には残っていた参拝者も散華や松明の燃えさしを手にお堂を後にしました。

籠松明と夜桜

なお、この日は新薬師寺前の田んぼを見ておくこともグループの目的でした。ここが開発され、施設が建つ計画が進んでいます。地域の、ひいては奈良の財産でもあるこの一帯を何とか守れないかと保存活動も行われていますが、来年のおたいまつの時には風景が一変してしまっているのでしょうか。

建設予定地の田んぼ、奥右が新薬師寺、左が鏡神社

(文・写真 保存継承グループ 梁川さやか)