奈良の歩き方講座 万葉歌人の人間関係と歴史的事件

米谷潔さん

10月20日(日)ナラニクルで、「~万葉集とその時代~」シリーズ6回が始まりました。今回は第1回、当会「奈良まほろばかるた」の制作提案・読み札解説文の原案作成者の米谷さん、今回もまたまた興味深い内容でスタートを切って下さいました。
まずは「万葉集は文学と歴史学との接点。いろいろな説のある歌集で、逆にそれが素人でも面白く読める歌集です」とその解釈の楽しさを教えて下さり、「今は歌碑も多く立ち、その風土を見て回ることができるので、その場で万葉集を歌えばなお楽し!」と。そして、「人の心は1200年、1300年経っても変わっていないので、そういうところをみてもらえたらなぁ」とおっしゃっていました。

<三角関係>
「大きな政治事件の根底には男女の三角関係あり」だそうで、まずは壬申の乱の中大兄皇子(天智天皇)・大海人皇子(天武天皇)・額田王から。『香具山は 畝火ををしと 耳梨と 相あらそひき 神代より~』の歌の大和三山はどれが男山?女山?という問題で解釈が変わってくるとか…。そして米谷さんは、香具山を男山と考え、その根拠を5つもご解説。(なるほど~‼)と。また額田王の『あかねさす 紫野行き 標野行き~』と大海人皇子『紫草のにほへる妹を憎くあらば~』の応酬歌も。「壬申の乱というのは、その根底に額田王をめぐる愛のもつれがあったとさえ言われています」と、歴史と万葉集のつながりをお話されました。
また「大津皇子事件には、草壁皇子と大津皇子の石川郎女をめぐる争いも一因と考えられる」という深~く掘り下げた解説もありました。

<姉弟愛>
万葉集で姉弟愛といえば、大津皇子と大伯皇女。『わが背子を大和へ遣るとさ夜深けて~』『二人行けど行き過ぎ難き秋山を~』の二首をご紹介。この題詞には大津皇子が「ひそかに伊勢の神宮(かむみや)に下りて」とありますが、なぜ「ひそかに」という語がつかわれたかを読み解かれます。また、『うつそみの 人にあるわれや 明日よりは 二上山を 弟世(いろせ)とわが見む』の歌の苦しく悲し大来皇女の胸の内を語られました。

<親愛関係>
1. 系図を使って、高市皇子と十市皇女の歴史的背景も交えてのお話。 『山振(やまぶき)の立ち儀(よそ)ひたる山清水~』の歌を黄泉の国が関係している等深い読み取りも教えて下さいました。
2. 穂積皇子と但馬皇女 こちらも系図を使って「二人が密かに通じていたことが人々に知られてしまった時に作った歌」→『人言を繁み言痛み 己が世に ~』を読まれます。そして穂積皇子の正妻であった大伴坂上郎女の娘の大伴坂上大嬢(おおいらつめ)は家持の従妹ですが、のちに家持の正妻(つまりいとこ同士の結婚)となり、なんとも複雑な当時の人間関係を説明されました。

<ライバル関係>
有間皇子と中大兄皇子
まずはこちらも系図と歴史的背景のお話から。「『磐代の浜松が枝を引き結び~』と『家にあれば笥に盛る飯を~』の二首は今までと違ってきています。これらはあくまでも祈りの二首の歌で神に頼るしかない、と犬養先生もこの説を取られています」とご解説。「事件から数十年を経ているのに忘れがたい出来事を歌っているところに、大伴家持が有間皇子に同情していたのでは…。」と米谷さん。そして草壁皇子と大津皇子についても話されました。

<片思い関係>
大伴家持と笠女郎
大伴家持は「歌を交わした女性は、女王一人、女郎七人、娘子(おとめ)七人。その中で熱烈に恋をしたのは笠女郎!」だったとか。『君に恋ひ 甚(いた)も術(すべ)なみ 平山(ならやま)の 小松が下に 立ち嘆くかも』など、天平5年から家持への恋の歌を贈り続け、計29首だそうです。米谷さんは笠女郎のことを「ここまで一途に家持を想っている人がいじらしくなってしまう。」と言われ、その中で時を知らせるものとして、鐘と鼓がある等のお話がありました。

<上下関係>
大伴旅人と山上憶良
大宰府に赴任していた旅人は、約3年間憶良の上司だったそうで、憶良は旅人が昇進して奈良へ帰るときに送別の歌を詠んで自分の任期後の身の振り方を頼んでいる歌『吾が主の御霊~』を紹介されました。米谷さんは「階級制度が整った令の官僚組織の中では、官人にとってその昇進だけが生活を良くしたと考えられます。」とおっしゃられていました。
そして、「万葉の時代も現代も変わらない人間関係の思いと行動があることがわかります」と締め括られました。

奈良の人達にもっと奈良の良さを知ってほしいと米谷さん。今日もわかりやすく、また趣向を変えてお話いただきありがとうございました。出席者の皆さんは一生懸命耳を澄ませて聞き入っておられました。万葉集ブームのお陰で、古代への興味はますます湧いてきます。まだまだ続く当会の万葉講座、あちらこちらでいろいろな形で開催されます。もちろん初心者も大歓迎!皆様ご家族お友達お誘いあわせの上、お一人様でもどうぞお気楽にご参加下さいませ。

写真、文:広報部 増田優子