保存継承グループ・祭礼見学会 長岳寺「節会(綱掛)」

1月10日 天理市・長岳寺の大門前に大綱を掛け、安全、健康、豊穣などを祈願する「綱掛行事」を保存継承グループ8人で見学しました。
釜の口山「長岳寺」は天長元年(824)に大和(おおやまと)神社の神宮寺として創建され、令和6年(2024)に、創建1200年の記念大法会が行われた、奈良の古刹です。

寒波襲来ですごく寒い日でしたが、朝9時半に到着すると、もうすでに鐘楼門の近くで檀家衆さんが稲わらを綯い大綱を作成中でした。
大綱の長さは約20mで、「かえるくび」と言われる太い箇所が2つあるそうです。

大綱作りと同時に、大師堂と双堂形式で建つ拝堂前では祇園の牛頭天王(龍王山の竜神)を勧請するための「お仮屋」を建てていきます。
地面に9本の杭を打ち、竹で下地を作り、境内で採取した樫と椎の枝葉で隙間なく覆って祠のように作っていきます

大師堂の花肘木
御簾作り

一方、拝堂の縁では大綱に吊るす「御簾」を作成中。
孟宗竹の竹ひごを裏表「七、五、三」に並べていくそうで、七五三で「しめ」と読み、注連縄と呼ぶようになったそうです。
ご住職のお話しによると、これらは檀家衆により伝承されてきたとのことです。

大綱と卒塔婆(ご住職の許可を得て撮影)

午後1時からは本堂でとぐろに巻いた大綱と、ムクの枝で作られた塔婆のお性根入れの法要があり、当グループも参列させていただきました。
本堂の御本尊は「阿弥陀三尊像」で、仁平元年(1151)、奈良仏師作といわれています。
最近の3Ⅾ計測で平等院鳳凰堂の阿弥陀如来像と正面の寸法割合が同じというのにビックリしましたが、像の厚みや深い衣文、衲衣の着かたなどでかなり違った印象に見えます。
脇侍は中尊と反対側の脚を踏み下げ、頭を中尊の方にすこし傾けるスタイルの三尊像で、奈良時代の興福院阿弥陀三尊像の脇侍とおなじ手法とのこと。
玉眼も奈良時代の塑像の眼を見て、おなじ鉱物の水晶を思いついたのかと想像してしまいます。

本堂の法要の後はお仮屋の前で牛頭天王を勧請する法要が営まれます。
完成したお仮屋は高さが2mくらいあり、入口には御簾がかけられ、中には御幣と三宝にのせられたお神酒、米、塩が供えられています。法要の最後にはご住職と檀家衆さんで二礼二拍手一礼。
密教法具の前で僧侶が拍手を打つのは不思議な感じですが、神仏照合の明治以前までは普通に見られた光景なのかもしれません。

梵字と願文が書かれた塔婆(庚申杖)
七五三で表され、樒が飾られた御簾

そして最後は大門前の大木に大綱を掛けます。
かたわらには祈禱された塔婆が切り株に括り付けられますが、上は五輪塔をあらわし梵字が書かれ、その下には願文が記されています。
大綱がどんどん張られていくと、かえるくびに付けられた特徴ある御簾がぶら下がっているという、珍しい祭礼に参加させていただいたことに感謝します。

昨年は8月に大繩が切れたそうですが、今年は、来年の節会まで無事に掛かっていますようにと願うばかりです。
この度の取材では、ご住職、檀家の皆さんにたくさんお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

保存継承グループ 文:神原幸司 写真:神原幸司