ソムリエンヌ 當麻寺写仏・写経体験
新緑が美しく晴天の5月14日、當麻寺を訪れました。
今回は當麻寺で写仏・写経体験です。

當麻寺は飛鳥時代に、用明天皇の第三御子麻呂子親王が兄である聖徳太子に寺院の建立を進められ萬法蔵院というお寺を建てたのがはじまりで、麻呂子親王の孫にあたる當麻国見が現在の場所に移して以来、當麻寺と呼ばれています。

當麻寺中之坊では写仏・写経体験ができます。
写仏は「阿弥陀如来」「観音菩薩」「勢至菩薩」「弥勒如来」「導き観音」「中将姫」「弘法大師」「不動明王」の8種 写経は「般若心経」「観無量寿経」「称讃浄土経」の3種から選ぶことができます。特に「称讃浄土経」は中将姫が一千巻の写経をされたと伝えられており、中之坊では中将姫が奈良時代の写経された真筆文字のお手本を写すことができます。
写経の前に當麻寺中之坊松村貫主から、「當麻寺の由緒」「国宝當麻曼荼羅」「中将姫」などのお話を聞くことができました。
国宝の綴織當麻曼荼羅は中将姫が一夜にして織り上げたと伝えられています。しかし実際は4m四方の曼荼羅を織り上げるには、20年近くの歳月が必要であるとのことです。
綴織とはまず爪先で文様となる糸を1本1本引き寄せるために、織師は爪をのこぎりの刃のようにギザギザに刻みます。そのギザギザに刻まれた爪先に文様となる糸を1本1本かき寄せて少しずつ織り描く手法です。国宝の綴織當麻曼荼羅は、最近では昨年の10月に京都国立博物館「法然と極楽浄土」の特別展で展示されました。奈良時代の織物は褪色が激しく文様ははっきりわかりません。現在の曼荼羅堂に掲げている曼荼羅は室町時代に写本された文亀曼荼羅といわれるものです。
中将姫は中世以降、歌舞伎や浄瑠璃、能を通じて継子いじめで有名になりますが、大切なのは称讃浄土経を一千巻写経され、その世界を感得された方であることと説明を受けました。
その後、松村貫主に絵解き拝礼式をしていただきました。「當麻曼荼羅絵解き」は口伝継承されているそうです。独特の節回しで写佛道場に祀られている平成本の當麻曼荼羅を指しながら極楽浄土の風景を絵解きしていただき、参加者全員で當麻曼荼羅に拝礼をしました。曼荼羅の近くには二上山に沈む夕日の写真があり、しばし中将姫が感得した極楽浄土の情景を感じました。

絵解き拝礼式の後、いよいよ写仏・写経体験です。
皆さん、それぞれ希望の写本を元に真剣に筆を走らせます。

称讃浄土経の写経を紹介します。
称讃浄土経は多くの方が写経される「般若心経」の約15倍の量があります。
中之坊ではそのお経を17行ずつに15分割して写経します。15回お寺に通い一巻の写経が終了します。中将姫はその写経を一千巻書かれたとのことなので相当の決意と努力をされたのだと思いました。中将姫の真筆は奈良時代のもので個性的な書き癖や現在では使われていない文字もあります。写経が難しいところは現代文字で書かれたお手本を確認し、何度も半紙をめくり中将姫の文字を確認しました。約1時間の写経のあと、最後に願文と自分の名前を書いて完成です。


写経中は書くことに集中していましたが、改めてどのようなことがお経の中に書かれているのかとても気になりました。そこで「称讃浄土経を読み解く」という松村貫主が書かれた本を参考に後日、振り返ってみました。
ほとんどのお経はシャーリプトラなどの弟子がお釈迦さまに問いかけをして、それにお釈迦さまがお答えになるというはじまりになっていますが、称讃浄土経ではお釈迦さまは問わず語りで説法を始めるめずらしい形になっているそうです。写経した部分の一節を見てみますと、
「又舎利子何因何縁彼佛世界名為極楽舎利子由彼界中諸有情類無有一切身心憂苦唯有無量清浄喜楽是故名為極楽世界」
「シャーリプトラよ。なぜこの世界は極楽と呼ばれるのか。それはそこにいる有情(生きとし生けるもの)にみな身と心に憂いや苦がなく、無量の清らかな喜びと楽しみがあるからだ」
今回、写経した部分が極楽浄土の核心を突くような表現があったのでドキッとしました。
このあとも極楽世界の様子が説かれていきます。
「極楽」「浄土」というワードが繰り返し登場し、その世界の様子がお経に出てきます。このお経を繰り返し繰り返し書かれた中将姫のお気持ちはどのようなものであったのだろうかと思いをはせることができました。
まだ15分の2しか写経できていませんが、今後は中将姫と心を通わせながらまずは一巻完成を目標にしたいと思います。(あと13回・・・)
写経の後はおまちかねのランチタイムです。
當麻寺門前の元旅籠を改築した「釜めし玉や」さんでせんどめしをいただきました。


テーブルごとにセットされているタイマーが鳴ると炊き上がりの合図です。お釜の重しの石をはずし、蓋を開けるとおいしそうな匂いと湯気が立ちこめました。


せんどめしの「せんど」とは奈良の方言で「何度も」という意味です。
1杯目はそのままで。
2杯目は温泉玉子を入れて玉子かけご飯風に。
3杯目は出汁を入れて出汁茶漬け風に。
3度の味変ができ釜いっぱいのご飯を楽しみながらペロリと食べることができました。


ランチ後は再び當麻寺に戻り、皆で曼荼羅堂、金堂、講堂を拝観しました。今回は絵解き拝礼式に参加し写仏・写経体験をすることで長い歴史のある當麻寺をより深く知ることができました。伝説の中将姫にも少し近づけたように思えます。松村貫主様、中之坊の皆様ありがとうございました。
次はどこで何を深掘りしましょうか。奈良マニアのソムリエンヌの活動は続きます。
女性サークル(ソムリエンヌ)文・写真 森川祐美