保存継承グループ祭礼見学会 率川神社「三枝祭」2025年6月17日

奈良市本子守町に鎮座する率川(いさがわ)神社は、593年(推古元年)の創建と伝わる奈良市内最古の神社で、大神神社の境外摂社です。
本殿は一間社春日造、檜皮葺の社殿を南向きに三殿並列させたもので、近世初頭の形式を伝える建物として県の指定有形文化財となっています。

率川神社本殿

本殿中央には媛踏鞴五十鈴媛命(ひめたたらいすずひめのみこと)、向かって左側には媛の父神である狭井大神(さいのおおかみ)、右側には母神である玉櫛姫命(たまくしひめのみこと)が祀られ、父母神が両側から子供を守るように鎮座されることから「子守明神」とたたえられ、安産・育児の神として篤く信仰されています。
三枝祭の歴史は飛鳥時代にまでさかのぼり、大宝元年(701年)制定の大宝令にも記されています。ささゆりの「元の名を佐韋という」ことから、狭井川とその地に咲くささゆりを神饌とする率川神社の三枝祭の起源となりました。

拝殿より本殿を臨む

御祭神の媛踏鞴五十鈴媛命は、三輪山の麓の狭井川の岸辺に立っているところを神武天皇に見初められ、初代天皇の皇后になったと伝わっています。
媛が三輪山の麓に住んでいたころ、狭井川の周辺にはささゆりが群生していました。媛の愛したささゆりを奉献して御祭神に喜んでいただこうと「三枝祭(さいぐさのまつり)」(別名=ゆりまつり)が始まったと言われています。
祭祀は6月16日から3日間行われ、例祭日は17日です。
16日の宵宮祭は、大神神社で採集したささゆりが「ささゆり奉献神事」や「道中安全祈願祭」の催行の後に駕籠に乗せられ、JRまほろば線の列車で三輪駅から奈良駅を経て率川神社に運ばれます。

三輪駅で列車待ちの花駕籠

JR奈良駅前では、大神神社から乗せられてきた駕籠から、率川神社へ運ぶための花車に移し替えられます。駅前広場では、ささゆり柄の浴衣を着たお囃子の社中の方や、ゆりの花がついた菅笠姿の踊り手の方々が加わり「ささゆり音頭」を踊った後に行列となり、花車と共に三条通りを通って率川神社に届けられました。

花車に乗せられたささゆり

ささゆり奉献奉告祭

ささゆりが届くと、神社では「ささゆり奉献奉告祭」のあと、ささゆりや神饌を神前にお供えし、宵宮祭は終了しました。
シニアにはこたえる暑さのなか、保存継承グループの有志が、ささゆり奉献巡行から宵宮祭までを見届けてくれました。

本宮祭の6月17日には、三枝祭、七媛女(ななおとめ)・ゆり姫・稚児行列安全祈願祭、引続き市内巡行が執り行われます。
当グループからは7人が参加し、古代から続く雅な祭を鑑賞しました。
宮司の祝詞で三枝祭が始まります。白酒・黒酒のお神酒を「罇(そん)」・「缶(ほとぎ)」と称する酒樽に盛り、前日に大神神社から届けられたささゆりがその周りに飾り付けられ、神饌と共に神前に奉納されます。
前日の奉告祭とは宮司の人数や装束が全く違います。また、前日の巫女の舞は2名で「浦安の舞」でしたが、この日は巫女4名により「うま酒みわの舞」が神楽に合わせて舞われます。巫女の装束も薄手の白絹にささゆりや麦の穂、木の葉が金糸銀糸で縫い取られ、非常に美しく厳かに見えました。一瞬ですがこの日の暑さを忘れるほど清々しく感じていました。

4人の巫女で舞う「うま酒みわの舞」

その後、関係各位の玉串奉納に続き神饌を徹し、午前中の部が終わりました。
午後からは「道中安全祈願祭」を執り行った後に、太鼓・稚児・七媛女・ゆり姫の順番で神社を出発し、市内巡行が始まります。
梅雨の期間中だというのに、この日は快晴の炎天下でした。
稚児行列では親御さんたちが熱中症の心配をされ、七媛女やゆり姫は傘を差しかけられて対策はしていたようですが、装束のこともあり、なかなかの苦行だと感じました。

上三条町交差点の行列

馬場町交差点付近を曲がる行列

ちなみに、稚児の参加資格は10歳以下だそうです。
七媛女やゆり姫は7名と決まっているのですが、今年のゆり姫は5名しか集まらなかったようです。
これは、行列を先導する神職の方に教えていただきました。
明治中期に一時期中断されていた三枝祭ですが、それでも1300年以上も続いてきて参列者も多く、講の方々も大勢いらっしゃるようなので、今後とも長く続いていくことでしょう。
しかし、三枝祭の主役でもあるささゆりが三輪山周辺では見かけなくなり、大神神社でもささゆりを集めるのに大変なご苦労をされているとのこと。篤志家の方々が別途栽培して大神神社にお納めすることや、また一つの対策として、ささゆり奉仕団などが結成され、ささゆりの復活に向けて地道な活動をされているようです。

ささゆりの説明板(大神神社)

私が小さいころには、近所の山に入ってささゆりを摘んできたことが何度もありました。気軽に行ってきたことが自然破壊の一つだったのかもしれないと思うと申し訳なさでいっぱいです。そんなことを教えられたのもこの祭礼見学に参加した成果だと思いました。

集合写真

文)保存継承グループ 神野一美  写真)同グループ 小西和子・本井良明・横山真紀子・神野一美