蓮のみちツアー その2 金峯山寺蓮華会と蛙飛び行事

七夕の飾りも蛙飛び仕様

さて、高田市奥田の捨篠池で摘み取られた蓮は吉野山へとやってきます。私たちが吉野山に到着した午後2時半ごろには、竹林院を出発して下ってきた蛙の太鼓台がロープウェイの吉野山上駅にすでに到着していました。上部に赤い布団を載せ周りに提灯を下げた色鮮やかな太鼓台に、これまた大きな青蛙が乗っています。この青蛙さん、カメラを向けるとポーズをとってくれたり、手を振ってくれたり、とっても愛嬌があり人気があります。蓮を運ぶ一行と青蛙を乗せた太鼓台が山上駅前で合流し、太鼓とにぎやかな掛け声とともに一同は金峯山寺蔵王堂まで練り歩きます。その後を、ほら貝を鳴らす修験行者衆の一行が、蓮を携えて整然と続きます。

太鼓台の前でハイポーズ
蓮を携えて歩く修験行者衆

太鼓台の重さは約2トン。太鼓台保存会が伝統を守ってこられましたが、最近では担ぎ手が少なくなりSNSやチラシなどで「蛙飛び太鼓台担ぎ手募集」をされています。条件は、脚力と体力のある人だそうで、地元の温泉入浴無料と地元の人たちと一緒の打ち上げに参加できるというのが特典です。

この日は熱中症アラートが出るほどの猛暑日です。太鼓台が威勢の良い掛け声に合わせて上下左右に揺さぶられると、大蛙の頭もガクンガクンとゆれます。急な階段を駆けののぼる際には、太鼓台の上で大きく手を広げて踏ん張っています。

「蛙さん、大丈夫かしら」(着ぐるみの中で熱中症は大丈夫なの?)というこちらの心配をよそに、途中の休憩場所では子どもたちを太鼓台の上にのせたり、一緒に記念撮影に応じたりと大活躍です。

威勢よく練り歩く蛙太鼓台
休憩中は子どもたちも太鼓台に乗れます

私たちもちょっとブレイク。蔵王堂前にはこんなかわいい蛙の映えスポット?がありました。

保存継承Gを代表して3名

行列は蔵王堂前に到着。まず運んできた蓮を蔵王権現に献じる蓮華会が行われます。蓮華会は1300年の歴史があり、法螺貝の鳴り響く中、蓮が蔵王堂の堂内に運び込まれ、蔵王権現に蓮を供えて法要が行われます。その後蛙飛び行事が始まります。蛙は太鼓台から3人の男衆に担がれて蔵王堂南側に張り出した舞台の先に控えます。

蔵王堂に入る蓮
舞台に控える大青蛙

蛙飛び行事には、古くから伝わる昔話があります。白河天皇の時代、行者や神仏を侮辱し侮っていた高慢な男が、大鷲にさらわれ高い崖の上に置き去りにされます。高慢な男が後悔していたところ、通りかかった金峯山の高僧が憐れに思って蛙の姿に変えて助けてくれました。蛙は崖を降りる事ができましたが、人の姿に戻ることはできません。蛙は金峯山寺僧侶の読経の功徳によって人の姿に戻る事ができたというのです。この話が元となって、大青蛙が高僧の読経でめでたく人間に戻るという場面が蔵王堂の前で演じられることになったのです。

ユーモラスなしぐさで進みます

蛙は階段下の左と右、そして堂内正面に座る僧侶の前にピョンピョンとすすんでは戻り、すすんでは戻りと、行き来しなくてはいけません。お堂の階段を四つ這いで上ったり下りたり、数珠で頭に活を入れられたり、蛙は頭を下げてじっと耐えています。このしぐさが、神妙なようでいて滑稽で思わず笑ってしまいます。蛙はそれぞれの僧侶から、化身前の不徳をなじられたり説教を受けたりして、高慢であった自分の不徳を謝罪していくのです。最後に、頭の被り物が取り外され、中から人間の顔が現れて、めでたく人間に戻る事ができました。現れた頭や顔は汗でぐっしょり。見ていた人たちから大きな拍手が起こります。

猛暑の中、被り物をかぶって大青蛙を務めてくださったのは仁王門前の団子屋さんのご主人で、もう20年以上もこの役を務められているそうです。

説教を受ける青蛙
頭の被り物が取られます

この後、採灯大護摩供が行われましたが、私たちは帰路につき、と思ったらまたまたミラクルが…。NHK に仲間の3人が取材され、その日の夕方放映されました。

修験衆は蓮と共に、翌8日未明(午前3時頃)に金峯山寺を出発して、12時間ほどかけて徒歩で山上ヶ岳頂上の大峰山寺を目指し、勤行が行われるそうです。

蓮のみちツアーは、古くから伝えられてきた伝統行事を守ろうと一生けんめい努力されている地域の方々の熱い想いに触れ、太鼓台を担ぐ人たちの熱気や歓声、大蛙のユニークな所作に魅了されたドラマティックな旅でした。暑い一日でしたが全員元気で帰宅できたことも何よりです。

文 保存継承グループ  小西和子  写真 本井良明