奈良と芭蕉
奈良検定に松尾芭蕉の俳句の問題はよく出題されている。
私も芭蕉は好きなので頭の整理のため奈良で詠まれた俳句の一覧を作成してみた。
『芭蕉全句集』(角川文庫)の983句の中から前書・句から奈良で詠まれたことがわかるのは以下の37句である。(素人の洗い出しなので落ちがあればご教授願いたい)
項目は通し番号、句、底本、年次、場所の順である。年次順に並べてある。
01. | うかれける人や初瀬の山桜 | 続山井 |
寛文七年以前 初瀬 | ||
02. | うち山や外様しらずの花盛 | 大和順礼 |
寛文十年以前 内山永久寺 | ||
03. | 五月雨も瀬ぶみ尋ぬ見馴河 | 大和順礼 |
寛文十年以前 見馴河 *1 | ||
04. | 木の葉散桜は軽し檜木笠 | 真蹟懐紙 |
貞享元年 吉野の奥 | ||
05. | 冬しらぬ宿やもみする音あられ | 夏炉一路 |
貞享元年 大和国長尾の里 | ||
06. | わた弓や琵琶になぐさむ竹のおく | 野ざらし紀行 |
貞享元年 葛城竹内 *2 | ||
07. | 僧朝顔幾死かへる法の松 | 野ざらし紀行 |
貞享元年 当麻寺 | ||
08. | 砧打て我にきかせよや坊が妻 | 野ざらし紀行 |
貞享元年 吉野の奥 | ||
09. | 露とくとく心みに浮世すすがばや | 野ざらし紀行 |
貞享元年 西行庵 | ||
10. | 御廟年経て忍は何をしのぶ草 | 野ざらし紀行 |
貞享元年 吉野後醍醐陵 | ||
11. | 春なれや名もなき山の薄霞 | 野ざらし紀行 |
貞享二年 奈良に出る道 | ||
12. | 水とりや氷の僧の沓の音 | 野ざらし紀行 |
貞享二年 東大寺二月堂 | ||
13. | 初春先酒に梅売にほひかな | 真蹟懐紙 |
貞享二年 葛城竹内 *3 | ||
14. | 世ににほへ梅花一枝のみそさざい | 住吉物語 |
貞享二年 葛城竹内 *4 | ||
15. | 春の夜や籠り人(ど)ゆかし堂の隅 | 笈の小文 |
貞享五年 初瀬 | ||
16. | 猶みたし花に明行(あけゆく)神の顔 | 笈の小文 |
貞享五年 葛城山 | ||
17. | 雲雀より空にやすらふ峠哉 | 笈の小文 |
貞享五年 臍峠 *5 | ||
18. | 龍門の花や上戸の土産(つと)にせん | 笈の小文 |
貞享五年 吉野龍門の滝 | ||
19. | 酒のみに語らんかかる滝の花 | 笈の小文 |
貞享五年 吉野龍門の滝 | ||
20. | ほろほろと山吹ちるか滝の音 | 笈の小文 |
貞享五年 西河(にじかう) *6 | ||
21. | 桜がりきどくや日々に五里六里 | 笈の小文 |
貞享五年 (吉野の)桜 | ||
22. | 日は花に暮てさびしやあすならふ | 笈の小文 |
貞享五年 (吉野の)桜 | ||
23. | 扇にて酒くむかげやちる桜 | 笈の小文 |
貞享五年 (吉野の)桜 | ||
24. | 春雨のこしたにつたふ清水哉 | 笈の小文 |
貞享五年 吉野山中の泉 | ||
25. | 潅仏の日に生れあふ鹿の子哉 | 笈の小文 |
貞享五年 奈良 | ||
26. | 若葉して御めの雫ぬぐはばや | 笈の小文 |
貞享五年 唐招提寺 | ||
27. | 鹿の角先一節のわかれかな | 笈の小文 |
貞享五年 奈良 | ||
28. | 花ざかり山は日ごろのあさぼらけ | 芭蕉庵小文庫 |
貞享五年 芳野 | ||
29. | はなのかげうたひに似たるたび寐哉 | 真蹟懐紙 |
貞享五年 平尾 *7 | ||
30. | 里人は稲に歌よむ都かな | 真蹟懐紙写 |
貞享五年か 大和高田市あたり | ||
31. | 初雪やいつ大仏の柱立 | 真蹟懐紙 |
元禄二年 東大寺大仏 *8 | ||
32. | びいと啼尻声かなし夜の鹿 | 笈日記 |
元禄七年 猿沢池のほとり | ||
33. | 菊の香やな良には古き仏達 | 笈日記 |
元禄七年 奈良の都 | ||
34. | 菊に出てな良と難波は宵月夜 | 笈日記 |
元禄七年 奈良の都 | ||
35. | 菊の香にくらがり登る節句かな | 菊の香 |
元禄七年 暗峠 | ||
36. | 菊の香やならは幾代の男ぶり | 杉風宛書簡 |
元禄七年 南都 | ||
37. | 奈良七重七堂伽藍八重ざくら | 泊船集 |
年次不明 奈良 |
*1 見馴河は『類字名所』に大和の国とあるのでここに含めた。句碑は伊賀上野市岩倉峡(木津川)にある。
*2 竹内村は『野ざらし紀行』の伴をした苗村千里の郷里。句碑「綿弓塚」は文化6年の建碑。
*3 葛城市営の綿弓広場は江戸時代からあった高松酒造の建物を平成4年に整備したもの。
*4 竹内村の医師明石玄随への挨拶句。玄随の号「一枝軒」にちなむ。
*5 多武峯より龍門へ越える道
*6 吉野川上流の早瀬
*7 細峠から吉野への途中
*8 造営中の大仏殿は元禄3年に仏頭が造られ、柱立ては同10年、落慶は宝永6年(句が詠まれてから20年後)であった。
検定受験の準備に使われるのもよいし、句碑を訪ねる資料など参考にしていただけばありがたい。
by 佐吉多万比古