万葉集 東歌その2-小崎沼

  武蔵の小崎の沼の鴨を見て作る歌一首
埼玉(さきたま)の小崎(をざき)の沼に鴨ぞ翼(はね)きる 己(おの)が尾に降り置ける霜を掃ふとにあらし

[原文]前玉之 小崎乃沼尓 鴨曾翼霧 己尾尓 零置流霜乎 掃等尓有斯 (巻9・1744)
[大意]埼玉の小崎の沼で鴨が翼を強くふるってしぶきを立てている。自分の尾に降りた霜を払い落すということらしい。(『日本古典文学大系』)
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今回は埼玉県行田市埼玉にある埼玉県指定旧跡 万葉遺跡「小崎沼」を紹介する。
国宝辛亥年銘鉄剣で有名な稲荷山古墳を含む埼玉古墳群から東へ約2.5㎞の田畑の中に小崎沼はある。

(2011年10月16日撮影)

小崎沼は田畑に囲まれた森の中にある。
現在は沼の北500mには旧忍川が流れているが、縄文海進の頃にはこのあたりまで東京湾が入り込んでいた。
周辺には最近まで大きな沼があり、万葉時代には沼の多い湿地帯であったと思われる。
埼玉古墳群は5世紀後半から7世紀初めごろまでに築造されたと考えられ、小崎沼の付近はこの地方の有力者の住む地域に隣接した場所であったと想像される。

小崎沼は小さな池のような跡になり水も枯れていた。
写真中央には水神社が祀られている。左端の大きな石碑は小崎沼史跡保存碑(1925年建立)である。

武蔵小崎沼の碑。

宝暦三(1753)年に忍城主・阿部正因によって建立された。背面には「埼玉」が詠まれた万葉歌2首が刻まれている。1首は表題歌で、もう1首は次の歌である。
・埼玉の津に居る船の風をいたみ 綱は絶ゆとも言(こと)な絶えそね(巻14・3380)
地図には尾崎沼神社と表記があり、鳥居も立っている。隣接地には天祥神宮が祀られているが、これは近年に祭祀されたものという。

by 佐吉多万比古