第2回サクサクわかる万葉講座 「万葉集の花」

講師 石田一雄さん

令和元年9月28日(土)南都銀行大宮支店ビルの4階において、「第2回サクサクわかる万葉講座」が25名の参加で行われました。今回の講師は当会理事の石田一雄さん。石田さんといえば、昨年、鑑真和上のふるさと揚州大明寺を訪ね、講演されたという探求心旺盛なお方!今回は、万葉集の花を四季折々愛でる楽しさをお話して下さいました。
まずは、鉄田専務理事より、令和・万葉集のブームに乗って、次々開催される当会のイベントを紹介されました。(詳しくは当会のホームページをご覧下さい)
その中でも、12月7日(土)はJR西日本とコラボしたウォーキングが開催されます。「JR奈良駅から巻向駅まで、4両編成・貸切の新型車両に乗ります。当会万葉集の講師・米谷潔さんが車内放送でミニ講話をしてくれます。約30分、耳を傾けながら、柿の葉ずしのお弁当をいただきがら、巻向駅に向かいます。駅からは当会ガイドグループが万葉歌碑を巡りながらご案内。我々だけの臨時列車で、他にはない当会ならではの楽しいツアーです。ご家族、ご友人お誘いあわせの上、たくさんの方のご参加をお待ちしています」。
そして、「この秋からリニューアルの奈良テレビ『ゆうドキッ!』に当会会員がレギュラー生出演します。毎週月・木曜日です。奈良の行事イベントやグルメ(狭いエリア限定のあまり知られていないお店)を紹介します。芸人さんも入って楽しい番組になるので、どうぞご覧下さい」とのことでした。
さて、石田さんの講座「皆さん、万葉集の花は奈良県のどこで見ることができるでしょう?特に万葉集にしか出てこない花も今日は紹介します」と始まりました。

1. 万葉集の植物
「4516首の歌のうち、1700あまりの歌に植物が詠まれます。その種類は150~160種。花の名・植物の名が特定できないものを加えると延べ2200首以上」だそうです。
万葉集の植物には、実生活に必要であった植物が多いようで、それらを紹介されました。また万葉集全体で植物を詠んだた歌数の多い歌人ベスト5として、①大伴家持220、②柿本人麻呂68、③大伴坂上郎女30、④大伴旅人26、⑤山部赤人25、を紹介されました。
歌数の多い花として、①萩142、②梅119、③橘69、④桜47、⑤尾花(ススキ)43、と紹介したあと、「今日は歌数にこだわらず、一つの花に一首ずつ歌を紹介します」と。
そして、花として観賞価値のある樹木や草50~60種から、奈良県で見られる36種についてそのスポットと歌を紹介されました。

2.四季の花と歌
(1)冬の花
梅:「まずは令和の梅から。梅は春を先取りする歌。山の斜面にフワーッとピンクや白に、香りもいいですよね。」と奈良県の三大梅林はもちろんのこと、奈良市内の片岡梅林もお薦めされていました。「円窓亭の近くに古い木が多く、とてもきれいです」と。
(2)春の花14種
桃:「桃が集まって咲いているのは石舞台!昔、遠足で行った時には何もない土手でした。これは観賞用に植えられました」と。「春の苑 紅にほふ桃の花 下照る道に 出で立つ少女(おとめ)」と大伴家持の歌を読まれ、この歌は「桃の花の下の道に、少女が現れたらいいなぁと空想で歌われたのでは?と言われています」と解説されました。
「ちょっと脱線しますが…有名な(うすいピンクの)又兵衛桜は、その後ろに濃いピンクの桃が咲いているから、その色がよく映えるんですよ」と。(なるほど!です)
椿:「椿と言えば、大和三名椿!しかしこの三つが同時に見られる所があるんですよ!」「当会ガイドグループの戸尾さんの『椿寿庵』(ちんじゅあん)が大和郡山市にあります。」とご紹介。
「戸尾さんはボランティアで、たくさんの椿300種をビニールハウス2棟で育てておられます」とおっしゃると、場内からは「へぇー、すごい!との声。(これは春には必見の場所ですね。戸尾さん、来年の春を楽しみにしています。)
また、桜井市玉列(たまつら)神社の椿祭りのお話もされ、やはり椿といえば万葉集「巨瀬山(こせやま)の つらつら椿 つらつらに 見つつ思(しの)はな巨瀬の春野を」を解説。この歌を詠った坂門人足(さかとのひとたり)はこの一首しか万葉集に載ってない人で、持統上皇の紀伊行幸の随行時に詠んだとのこと。
かたかご(カタクリ):「県内で見られる場所は少ないですが、葛城山に行って、歩いて登ると途中の湿地に群生しているのが見えます」と。そして万葉集には「物部(もののふ)の八十少女(やそをとめ)らが…」をご紹介。「乙女が出てきますが、これまた想像!」とのことでした。
さくら:当時の花見は梅でした。桜の花見が庶民に普及するのは、徳川吉宗の江戸時代からです。ソメイヨシノは新種で、クローン桜です」と。「万葉集の時代の桜はヤマザクラ。山を登っていく桜は他の所にはなかなかありません」と吉野山の桜をご紹介されて、山部赤人の「あしひきの山桜花…」を読まれました。
また「いつも悲しいのは、奈良のヤエザクラが注目されないこと。5月の連休頃に咲きますが、ソメイヨシノの桜前線は青森、北海道へ行ってしまって、その頃に奈良のヤエザクラが咲いてもあまり話題になりません。今度、「ゆうドキッ」で取り上げてくれるかなぁ(笑)」とおっしゃられました。
梨:石田さんが宇陀市の仏隆寺で写された美しい梨の花の写真とともにご紹介。「仏隆寺といえば千年桜が有名ですが、門前の崖に咲いているのを見て満足してしまい、お参りに行かない人がいる」と憂いておられました。「門を入ると、奥に咲いている梨のきれいな白い花をぜひ見に行って下さい」と。
ツツジ:ここでは、葛城山と御所市の船宿寺。「船宿寺は、すごいですよ!門に入ったらつつじで埋まっていますから」と。「船路集落のオオデマリに出迎えられ、船宿寺に入るとツツジ、奥にシャクナゲ。ぜひ一度お出かけ下さい」と。そして、「舎人(皇族に従う従者)が草壁皇子と生前に行ったことを思い出してうたった歌」を詠まれました。
藤:藤!といえば萬葉植物園。「ここは藤の園、200種2000本でほとんど藤棚になっていない。立ち木のまま育てている。昭和7年に開園された第1号で、萬葉植物の8割以上がある」そうです。石田さん、一番のお薦めは5月5日と11月3日の南都楽所(がくそ)の舞楽でそれぞれ子供と大人が行います。
他にも馬酔木(あしび、あせび)、やまぶき(般若寺)、つみ(山法師)、あやめぐさ(花しょうぶ、馬見丘陵公園)、うのはな(うつぎ、長谷寺、県立万葉文化館)、かきつばた(長岳寺、法華寺)、あざさ(三宅町)など万葉集の春の花を愛でる場所を教えて下さいました。
(3)夏の花7種
あじさい
有名なのは矢田寺ですが、空いていてお薦めは長岳弓寺です」と、橘諸兄のあじさいの歌を紹介されました。
他にもくれない(べにばな)、ねぶ(ねむ)、はねず(ざくろ)むらさき、ささゆりの花と歌をご紹介。
はちす(蓮):ハスは西大寺、喜光寺、唐招提寺、薬師寺のロータスロード4か所のことと、JR大和二見駅近くの生蓮寺(五條市)を紹介されました。

(4)秋の花14首
秋の花、あさがお(「桔梗」のこと、円成寺・元興寺)や萬葉植物園の「くず」「なでしこ」や明日香村の「をみなえし」に因(ちな)んだ万葉集を読まれました。
藤袴(ふじばかま):曽爾村のふじばかまと山上憶良のこれぞ秋の七草!の万葉集「萩の花 尾花葛花 なでしこの花 女郎花(おみなえし)また藤袴あさがほの花」を読まれ「春の七草は食用!秋の七草は観賞用!」と教えて下さいました。
いちし(ひがんばな):彼岸花は仏隆寺と葛城古道を推薦、「路の辺の 壱師(いちし)のはなの いちしろく 人皆しりぬ 我が恋妻を」(自分の奥さんがきれいだということを他の人に知られてしまったという意味)の歌を紹介。
はぎ:萩は元興寺、白毫寺(今年の秋の当会ガイドグループのコースです)
はねず(芙蓉):白い花がだんだんピンクになり、酔っぱらったようになるという「はねず」(酔芙蓉)の橘寺。
また、奈良市内でも見ることができる平城京跡のをばな(すすき)やつきひとのかつら(キンモクセイ)も紹介され、その万葉集も詠まれました。
ちち(乳、いちょう):そして秋が深まる11月に実をつけるちち(いちょう)は、戒長寺のお葉つきイチョウや音羽山観音寺を紹介し、大伴家持の「乳の実の父の命 (みこと) 柞 (ははそ) 葉の母の命…」の歌を解説されました。
もみぢ(もみじ)、さなかずら(さねかずら):もみじは正暦寺・談山神社の美しい紅葉を紹介され、橘奈良麻呂の邸宅で主人を讃えるように詠んだ万葉集「めづらしと わが思ふ君は~」の歌を教えて下さいました。また、さなかずらは不退寺でした。
たちばな:最後に橘のお話。橘寺や興福寺南円堂をご紹介。「興福寺南円堂の橘は、なかなか花は見られないが、実は長持ちします。平安時代から左近の桜、右近の橘と言われてきましたが、南円堂では左近の藤となっています。」と。
そして、聖武天皇の「橘は 実さへ花さへ その葉さへ 枝に霜降れど いや常葉の樹」を紹介されました。これは「葛城王(橘諸兄)が橘の姓を賜った時に歌われたもので、『橘』は文化勲章のマーク、これをかたどって作っている」そうです。
ちなみに「橘は香りがありますが、皮をむいても小さいものしか入っておらず、酸っぱい」そうで、「実は橘のエキスを使ったお菓子があるんですよ」と。橘寺で除夜の鐘をつくと地元の洋菓子屋さんがお供えしたパウンドケーキをいただけるそうです。石田さんが行かれた時10人~15人しか集まっていなくて、108撞(つ)くのに(人が足りず)何度も撞くことができたとか。「ぜひ何回でも撞ける除夜の鐘に挑戦して下さい」とおっしゃっていました。
ということで、石田さんは「今年は万葉集の年!ぜひ万葉集の花を楽しんで、それをきっかけにして万葉集の世界に親しんでもらえたら。」と締めくくられました。
今回の万葉講座は、万葉集のことを少しでも知っているだけで、大和路の花を愛でるのが、倍!楽しくなる、すぐにでも出かけたくなる素敵な内容でした。
石田さん、美しい花や樹木と神社・仏閣の写真がいっぱいの万葉集の歌の解説をありがとうございました。万葉の人々の気持ちになって季節ごとの花を楽しもうと思われた方も多かったのでは。当会の令和に因(ちな)んだ万葉講座、まだまだ楽しみ方があるようで続きます。皆さんこの機会をお見逃しなく!

文:増田優子(広報G) 写真:鉄田専務理事