奈良市上深川町「題目立」

題目立(ユネスコ無形文化遺産、重要無形民俗文化財)は上深川町の八柱神社の祭りで奉納される芸能で、10月12日の宵宮祭で同町の青年たちによって演じられます。題目立とは源平の武将を題材とした演目を、出演者が登場人物ごとに台詞を分担して、独自の抑揚をつけて語る芸能です。

出演するのは上深川の17歳を中心とした青年たちです。上深川では17歳になると神社の伝統的な祭祀組織である宮座(みやざ)に加入する慣わしがあり、座入りする事により、初めて一人前の地域成員として認められると考えられてきました。題目立は座入りする年齢に達した青年による氏神への奉納芸能であることから、成人儀礼の性格を持つ行事となります。

私たちは10月1日に上深川町民俗資料館で題目立保存会の方(会長:福山義孝様)よりお話を聞く事が出来ました。会長の福山様のお話では「ずっと数え17歳の元服の儀式として続けてきたが、現状として若者不足と過疎化で今年の17歳は2名のみ。17歳以上の者が一緒に演じるが上深川の住人に限っている」とのこと。また「いつ頃に始まったのかは定かでないとしながらも、興福寺の『多聞院日記』に記述がある事や、享保18(1733)年に、寛永元(1624)年頃の詞章を書き写し直した詞章本が残されている」等といったお話をして下さいました。民俗資料館には祭祀の衣装や写真のパネルなどが展示され、題目立詞章本もありました。

民俗資料館でのお話

上深川町には「厳島」「大仏供養」「石橋山」の三曲の詞章が伝わっています。このうち上演されるのが「厳島」か「大仏供養」で、今年は「厳島」が上演されます。「厳島」は崇敬する安芸の厳島神社に訪れた清盛が、弁財天から天下を治める節刀(長刀)を授けられるというお話です。

10月12日宵宮祭の夜。寒くて冷える中、19時より開始で、私たち参加者9人は約30前に八柱神社に到着。当日は臨時駐車場ができておりスタッフの方が親切に誘導して下さいました。既に観客もちらほらとおられ1日に訪れた際の厳かな雰囲気の柱神社は一変、幻想的な雰囲気に包まれていました。

私達も戴いた「ふるまい餅」
みちびき

ろうそくを手にした長老が「みちびき」を謡いながら若者たちを先導し舞台へと向かい、舞台の周りの所定の位置につきます。参篭所の呼び出し役に応えて其々の出演者が、独特の抑揚をつけて自らの名を名乗ってから台詞を語っていきます。基本的に所作は殆どなく、出演者は所定の位置で静かに物語を語り継いでいきます。この語りが題目立の大きな特色です。曲の最後近くになると「フショ舞」が振舞われます。出演者全員で「よろこびの歌」を謡うなか、一人が舞台中央に進み出て反り返るようにして扇をかかげ、強い調子で足を踏みながら舞台を一回りします。短いものですが、それまでの静かな雰囲気から一転した動作で印象的な舞です。

最後に「入句」を唱和し、再び長老の先導で「みちびき」を謡いながら退場し、祭りは20時45分ごろ終了しました。

「厳島」の演者は8人
弁財天も男性が演じます

出演者の役は決まっていますが、簡素な舞台装置と簡単な採り物をもつだけで、仮装もせず所作も僅かで、舞台の所定の位置で其々が台詞を語っていく内容は、芸能史の研究者から「語りものが舞台化した初期の形を伝えている」と評され、中世の芸能の姿をうかがわせるものとして高く評価されています。現在題目立は上深川にしか伝承されておらず、そういう点でも貴重です。またこれが観客よりも、あくまで氏神への奉納芸能としての形式を保っており、あわせて青年たちの成人儀礼の意味合いをもち、地域の人たちの支えを受けて上演されることも、この芸能の民俗的な特色として重要です。

フショ舞

またこれが観客よりもあくまでも氏神への奉納芸能としての形式を保っており、あわせて青年たちの成人儀礼の意味合いをもち、地域の人たちの支えを受けて上映される事もこの芸能の民族的か特徴です。

約450年、今まで知る限り題目立が途絶えたという話は聞いた事ないと会長福山様の話。今後もこの光景がすっと見られることを祈りながら八柱神社を後にしました。

(以上、祭祀の歴史や特徴、内容等は「題目立」のパンフレットより引用)

保存継承グループ  文:喜多志乃 写真:大谷巳弥子、垣内博久、鶴田吉範、本井良明、喜多志乃