保存継承グループ・祭礼見学会「阪原の神事芸能」  「オワタリ」「ジンパイ」「スモウ」 長尾神社~南明寺

令和8年3月、奈良市阪原町に古くから伝わる神事芸能が「奈良県指定無形民俗文化財」に指定されました。中心となる長尾神社の太田和秀宮司には指定文化財の調査で大変お世話になっており、この度、神事芸能が演じられる10月11日の秋の例大祭に、保存継承グループから8名で見学に伺いました。


阪原町は奈良市東部、大柳生と柳生の間に位置しており、県庁から車で30分程度という立地でありながら、山と田園を望む静かな地域で、最新の調査では107世帯・人口197人となっています。歴史は古く、柳生街道沿いにあたるため、おそらく平城京の時代から都と笠置、伊賀、信楽以東の地を結ぶ要衝だったと考えられます。大柳生、柳生、邑地(おおじ)とともに春日大社領の「神戸四箇郷(カンベシカンゴウ)」の一つでもありました。
氏神である長尾神社は、創建や由緒は詳らかではありませんが、古くから「熯速日命」が御祭神で、庶民安楽と五穀豊穣を御神徳とし、特に悪病退散の守護神として祀られています。神社の本殿は、桃山時代ごろの春日大社造替時の本社本殿(一の御殿)が移築された「春日移し」であり、昭和30年に国の重要文化財に指定されました。春日大社との古くからの強い繋がりがうかがえます。

長尾神社鳥居前から
本殿(中央)と御霊神社(右)

阪原の神事芸能は秋の例大祭の一連の行事として催されます。まず前夜に「宵宮祭」が行われ、「ジンパイ(神拝)」7人、「スモウ(角力)」2人などの所役の配役が決まり、舞台での練習が行われるそうです。

祭の当日は好天で、暑いくらいの日差しの中、我々見学メンバーはお昼過ぎに神社に到着しました。
境内にある奈良市指定文化財の「茅葺き能舞台」上には神輿が据えられており、宮司と氏子や地域の代表者が舞台上に昇って祈禱神事が始まりました。

神輿
祈祷

祈祷終了後、地域の人たちが集まって、吹流し、旗、小幣などが用意されます。私たちが宮司さんと挨拶を交わしたり、境内のお社や近くの「足痛地蔵」を参拝したりしていると、予定より早く13時半頃から「オワタリ(お渡り)」が始まりました。
「オワタリ」とは地区の人たちが行列を仕立て、南方約800メートル隔てた南明寺の境内にある御旅所まで賑やかに練り歩く神事です。
天狗姿の少年を先頭に、獅子舞、箒、毛槍、鉾、旗、真榊、小幣、神輿、宮司、真榊、旗、吹流し、弓矢、神拝役の人達と、総勢50人余りの老若男女が参加していました。

先頭の子供天狗、獅子舞
神輿の渡御

御旅所のある南明寺は、鎌倉時代中期に建立された真言宗御室派の寺院で、本堂と平安時代作の薬師如来、釈迦如来、阿弥陀如来の藤原三仏がいずれも国の重要文化財に指定されています。寺伝によると575年に渡来僧が開いた「槇山千坊」の跡の一つとも言われており、この地域が非常に古い時代からひらけていたことが推測されます。
この南明寺境内に「オワタリ」の一行が入り、入口横の大木の下の高台に石の台座がしつらえてある上(御旅所)に神輿が据えられて、宮司たち、南明寺住職、地域代表者らによって改めて祈祷が行われました。この場所には、現在長尾神社本殿隣に祀られている御霊神社がもともと鎮座していたとのことで、神社から寺への「オワタリ」を行う理由もその歴史的背景にあるのではないかと思われます。

御旅所

祈祷が終わると御旅所下の境内にゴザが敷かれ、15時前からいよいよ「ジンパイ」と「スモウ」の芸能が始まりました。神輿の下に小幣を持つ人と、矢をつがえた弓持ち2人が立ちます。
「ジンパイ」は笛を吹く人が横に立ち、反対側に鼓1人、ビンサラサ3人、太鼓2人が横に座ります。そして笛、鼓、ビンサラサ、太鼓の全員で三拍子のリズムを演奏しながら、三拍子目の後に「ソ―」と全員で掛け声をかけ、左回りで3周します。次に右回りで3周して席に戻ります

次に、鼓を持つ人が、腰を軽くかがめて右腕を顔面にかかげ袖で顔を隠すようにして中央後方に立ちます。神輿や小幣の方へ三歩進んで拝礼をしたのち、三拍子で鼓をたたき掛け声をあげながら左回りで3周して小幣の前に立ちます。鼓を置いて襟に挿していた日の丸扇をひろげて両手を後方に大きく回したあと、その反動で下からすくい上げるように伸びあがり、「ワー」と全員で大声で叫びます。田楽芸の流れを受け継ぐ「虫払い」の所作とも言われています。その後右回りで3周して席に戻ります。
この所作をビンサラサ3人、太鼓1人が、各々順に行っていきます。

次に「スモウ」に移ります。
短パンの上に褌を締め、上半身裸という恰好の男性2人が、太刀を肩にかかげて入場します。股の下にはソフトボール程度の大きさの白い球を袋に入れてぶら下げており、周囲から笑いが起きます。2人は腰をかがめ右腕を顔の前に掲げて小幣の前まで進み、太刀を置きます。参加者全員の「ヨイヨイヨイ」という掛け声に合わせて自分の尻を両手で大きく叩きながら三歩後退し、今度は手のひらを上にして交互にすくい上げるように手を振りながら、「ヨイヨイヨイ」の掛け声で前進して正面の小幣に括りつけられた紙をとって手をふき丸めてそこに置きます。再び尻を叩きながら後退し、手をすくい上げるように振って前進した後、2人で手を取りあって大きく振り、その反動で下からすくい上げるように伸びあがり、「ワー」と全員で大声で叫びます。その後太刀を持って退場します。

一般的に「スモウ」から想像される「力比べの格闘」の要素は全くありません。おそらく子孫繁栄を願う民俗信仰の象徴的な意味合いをもつ所作と思われ、全体的にコミカルな動作で見学者からは笑いが絶えませんでした。
30分ほどで芸能が終わり、一行は再び長尾神社へ引き上げます。
神社では能舞台の上で再び祈祷、「ジンパイ」「スモウ」が行われ、16時半ごろに終了となりました。
絶好の秋晴れのもと、地域をあげて和やかに繰り広げられた古くから伝わる独特な神事芸能を堪能することができました。

宮司さんのお話によると、地域の過疎化が進んで人手が減り、本来は大きな布団太鼓も出していたが、担ぎ手不足のため休止しているそうです。各所役の担い手も対象者が減って配役に苦労されているようですが、いろいろ工夫しながら、「ゆるく、長く続けていこう」と取り組まれています。参加者の都合を合わせやすくするため、阪原を離れた人たちが帰省しやすいよう、祭りの開催日も本来の10月16日・17日から「10月第2土・日曜日」に変更されました。

県の無形民俗文化財に指定されたことをきっかけに、この和やかでおおらかな村の楽しい伝統行事がこれからもつつがなく続いていくことを祈りながら帰路につきました。

保存継承グループ  文:三谷尚彦  写真:三谷尚彦、神原幸司